第1話
文字数 537文字
もう、12年になる。
あのひとがいなくなってから。
不思議なことに、どうしても命日が覚えられない。
あんなに悲しかったことは、後にも先にもなかったのに。
あんなに泣いたことは、今まで生きてきて一度もなかったのに。
それなのに、命日が覚えられない。
命日をすっかり忘れていて、知人から指摘されたこともあった。
薄情なのかしら…。
いいえ、今でも、あのひとのことを考えない日は一日もない。
でも、命日は覚えられない。
春の終わりに逝ったことだけは覚えている。
あの年は暖かくて、桜の開花が早かった。
来年のこの桜を見ることはないと思って、そう思っていつも病院に行った。
これが最後の入院になると思った日、車イスをゆっくり押しながら、遠回りして、桜が咲いているところを選び、病院に向かった。何度も車イスを止めて、一緒に桜を見上げたけれど、もう見えていないようだった。どうして、あんなにしてまで桜を見せたかったのだろう。花に興味があるひとではなかったのに。花見に行ったこともなかったのに。それでも、桜を見ると、あの日のことが、ゆっくりと車イスを推していたあの日のことが思い出されて仕方がない。
また、桜の季節がくる。
今年も、私は、彼が逝ってしまった日を忘れてしまうのだろう。
あのひとがいなくなってから。
不思議なことに、どうしても命日が覚えられない。
あんなに悲しかったことは、後にも先にもなかったのに。
あんなに泣いたことは、今まで生きてきて一度もなかったのに。
それなのに、命日が覚えられない。
命日をすっかり忘れていて、知人から指摘されたこともあった。
薄情なのかしら…。
いいえ、今でも、あのひとのことを考えない日は一日もない。
でも、命日は覚えられない。
春の終わりに逝ったことだけは覚えている。
あの年は暖かくて、桜の開花が早かった。
来年のこの桜を見ることはないと思って、そう思っていつも病院に行った。
これが最後の入院になると思った日、車イスをゆっくり押しながら、遠回りして、桜が咲いているところを選び、病院に向かった。何度も車イスを止めて、一緒に桜を見上げたけれど、もう見えていないようだった。どうして、あんなにしてまで桜を見せたかったのだろう。花に興味があるひとではなかったのに。花見に行ったこともなかったのに。それでも、桜を見ると、あの日のことが、ゆっくりと車イスを推していたあの日のことが思い出されて仕方がない。
また、桜の季節がくる。
今年も、私は、彼が逝ってしまった日を忘れてしまうのだろう。