episode_008

文字数 2,991文字

 二人が美林閣につくと、楽が現れた。
「いらっしゃいませ、今日はおともだちいっしょですね」
 史子は、あれ以来、何度か岡崎と同伴で来ていた。
 注文が終わったところで、麻菜が切り出した。
「中国語オヤジ、パワー全開って感じじゃん」
 今週から史子は夏休みに入っていた。それにあわせ、出勤を週五日にしたのだが、岡崎は全ての日に、スプレンディに現れている。
「引っ張るって、決めたからね。でも、最近、ちょっとうざくて」
 最初の頃の岡崎は、一人で、三国志や中国の話を延々としているだけだった。しかし、スプレンディに来る回数が増えて、同じ話を繰り返すようになっている。
「授業で使うパソコンが苦手で」と史子が言ってからは、これにパソコンの話が加わった。三国志や中国の話は、まだ「身に付くな」という感じで、同じ話でも我慢できるが、専門用語が多いパソコンの話は、理解ができず、理系が苦手な史子は苦痛だ。それに加えて、プライベートを詮索しだした。
「本名は?」
「誕生日は?」
「何処に住んでいるの?」
「今までつき合った彼氏は、どんな人?」
 スプレンディに入って、麻菜と仲良くなった史子は「そういう質問されるから、すべて、シナリオを作っておいた方がいいよ」と以前にアドバイスされていたので、作ったシナリオ通りの嘘を教えた。
「本名は、ありがちな名前で」「真由美」
「誕生日は、給料日あとにする。そうすれば、イベントが打ちやすいから」「九月二十五日」
「住んでるところは、土地勘があるところ」「(叔母の家がある)千歳船橋」
「もちろん、今は彼氏がいないこと。別れて長いことを伝える」「高校二年の時に、同じクラスの子と一年ぐらいつきあった。受験が始まってそのせいで別れ、私が東京に出てきたことで、全然連絡していない」
その上、史子は、大学名も変えて、
「母子家庭で、奨学資金をうけている」と岡崎には言ってある。
「本名や住んでいる所、学校名は、他のお客さんには、決して言ってないんですよ、岡崎さんだけですからね。絶対内緒にして下さいね、って言ったら、すごく喜んじゃってさ」
「ほんと、バカだね」
「でもね、お礼のメッセージとか、ちょっと遅れると、遅いよ、今、何してるの? どこにいるの?、なんてしつこくってまいっちゃう」
「しょうがないって、それがうちらの仕事だから」
「そうだよね、それに、一週間中国だ、って言ってたから、骨休め。このまま遊んで、その後、岩盤浴行こうよ」
「いいねぇ。ところでさ、最近、大輝君から連絡あった?」
 史子は、六月に別れてから、和明には、全く連絡をしていないし、和明からもない。
「そういや、全然、営業来ないよ、私が行かないからあきらめたのかな」
「玲香の所にも、連絡ないんだ・・・実は、カイザーにもあんまり出てきてなくて、担当客の売掛とかは、全然ないんで、店としてはそんなに気にしてないんだけどね」
 別の仕事していることは、和明には口止めされてるしな
「そうなんだ、ごめん、私は、わかんないや」
「そっか、でも、そのおかげなのかどうかわかんないけど、遼介君さ、売上で三位まであがっちゃって」
「麻菜が、支えてるじゃないの?」
 史子が、意地悪な笑顔で、麻菜につっこむ。
「そうじゃないって、確かに、割と店いってるけど、そこまでいってないし、第一、私の給料知ってるでしょ、それじゃ、無理だって」
「そうだよね。でも、掛けとかしないでよね、心配だから」
「私に説教? えらくなったわね。最初はなんも知らなかったくせに」
「ごめんごめん」
 二人は笑いながら、グラスのお酒を空けた。

 その頃岡崎は、深センのホテルにいた。深センは香港から近い経済特区であり、日本企業も多く進出している。上海と同様、岡崎の会社は、ここでもビジネスをしている。岡崎は、深センは初めてだったが、香港本社のスタッフが気を利かせて、カラオケバーへ案内してくれた。
 鎖骨の感じが真由美に似てるな
 岡崎の中では、史子はもう『玲香』ではなく『真由美』だった。連れ出した真由美に似た鎖骨を持つ子−淑絹はシャワーを浴びている。
「淑絹、今夜だけ、お前は真由美だ、わかるか? 真由美」
「真由美って?」
「日本では綺麗な子につける名前だ。お前に合ってるよ」
「お客さん、北京語もうまいけど、お世辞もうまいね」
「いいから、真由美になれ」
「それじゃ、日本に連れて行ってくれる?」
 岡崎は「またか」と思ったが、鎖骨にふれながら、「真由美と日本語で言えたらな」と言った。
「ま、ゆ、み」
「そう、真由美」
「ま、ゆ、み」
 窓から外を見ると、男達が路上でビリヤードをやっている。決して水平がとれているとは言えない台だが、キューをつく間に、大声を上げている。彼らは賭けているのだ。
 真由美は俺に彼女がいないのがわかったはずだ。そして、俺だけにいろんなことを教えてくれる。
「岡崎さんだけですから。絶対内緒にして下さいね」
 内緒が好きだな、真由美は。でも、全部の客には、当然、言えないしな。俺だけには話してくれる。他のヤツはただの客。俺は、ただの客じゃない。
「それじゃ、なんだ・・・」
 その疑問が浮かんだ時に、淑絹が出てきた。このあたりの子にしては、色が白い方だ。それも岡崎が淑絹を選んだ理由である。ベッドに寝かせ、バスタオルをはがそうとする。
「電気、消してください」
 と淑絹が言う。
 その方が、真由美に集中できるな
 岡崎は、スタンドの明かりを消した。バスタオルをはがすと、思ったより大きな乳房が現れた。そっと、乳首を口に含み、転がす。淑絹は、声を上げない。反対側もそうやってせめるが、やはり、声をあげない。見上げると、鎖骨がある。鎖骨に舌を這わせながら大きな乳房をゆっくりの揉みしだく。それでも淑絹は、黙ったままだ。
 これなら、どうだ
 岡崎は、淑絹の脚を大きく開き、その間を舐めだした。
「・・・・を舐められるのはイヤ」
 淑絹が初めて、声をあげた。性器の名称だけは、日本語だ。
「中国の子が、舐められるのは嫌いだと知ってるよ。でも、淑絹、今、お前は真由美だ」
「舐められるのはイヤ」
 淑絹の声が、真由美の声に聞こえる
「舐められるのはイヤ」
 さらに執拗に舐める。
「舐められるのはイヤ」
 頭の中に、真由美の声が響く
「舐められるのはイヤ」
 岡崎は、昂ぶりを感じる。
 再び、鎖骨を舐めながら、乳房を揉む。淑絹の手が、岡崎のペニスをしごく。しごきながら、ゴムをつける。
「早く、いれましょう」
 淑絹に導かれ、挿入する。激しく腰を動かす。
「真由美、俺とつき合ってくれ」
「お客さん、日本語で言われても、わからない」
「いいから、俺が日本語で何か言ったら、
真由美、うれしい、というんだ。真由美だけは、日本語だ。さっき、練習したから、言えるな」
「あぁ、はい、わかりました。ま、ゆ、み、うれしい」
「俺とつきあってくれ」
「まゆみ、うれしい」
「俺と、こうやって愛し合おう」
「まゆみ、うれしい」
 岡崎は、激しく動く。
「俺と結婚してくれ」
「まゆみ、うれしい、あぁ」
 目の前の鎖骨が大きくクローズアップされる。
 岡崎は高まりを放出した。
 淑絹が帰ったあと、さっきの高揚した気分が嘘のように、虚しさがこみ上げてきた。
 やはり、本物の真由美じゃなきゃダメだ。中国に来ると、真由美に会えない。真由美に会えなければ、俺が俺じゃないみたいだ。真由美に会いたい
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