第1話

文字数 863文字

 私は給食が嫌いだった。嫌いな科目は給食だと言ってもいい程、お昼の時間が苦痛でたまらなかった。給食に限らず、食べる事自体が、私にとっては修行だった。生きていく為にだけ仕方なく食べ物を摂取していたと言ってもいい。あの頃の給食は、今のように好きな物だけ食べればいいといった生ぬるい物ではなく、嫌いだろうが量が多かろうが、とにかく全てを食べ尽くさねば昼休みは無いという過酷な物であった。体が小さく、食べるのも遅い私は、さっさと食べ終え遊びに行く友人達に取り残され、一人ポツンと先割れスプーンを舐めて時間をやり過ごしていた。昼休みを犠牲にし、掃除の時間にまでもつれ込むと、ようやくお残しが許された。そうなると、私は喜々として残飯入れへと向かうのであった。
 私が特に苦手だったのが肉の脂身で、ぶよぶよしたその塊は、あたかも未知の生物であるかのように感じられた。こんな不気味な物体を口に入れ飲み込める人の気が知れないと思っていた。
 辛い六年間を何とかクリアし、中学校へ上がると、ついに忌まわしい時間から開放された。給食がお弁当に変わったのだ。こうなれば私の天下だ。好きな物だけを少しだけ詰めて行けばいい。もう、無理に食べなくてもいい。私は涙が出るほど嬉しかった。
 ところが、ここに来て状況は一変する。運動部に入った私は、ちっぽけなお弁当では補えない程お腹が空き、部活に行く為には迅速に食事を終えなければならず、信じられない程の大食い、早食いへと成長を遂げたのである。あんなに苦痛だった食事が楽しみのひとつになった。そして、調理法で嫌いな食材を美味しくする事も可能であることを知った。脂身は、トロトロに煮込んだり、カリカリに焼くことで美味しく変身する。小学生の私は、なんと勿体ない日々を過ごしていたんだろう。
 出来ることなら、あの頃の私に食事の楽しさを教えてやりたい。美味しいご飯を作って、あの頃の私と一緒に食べられたらどんなにいいだろう。あの頃もっと食事を楽しめていたら、人生変わっていたかも知れない、などと大袈裟な事を考えてみたりして。
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