第4話(4)

エピソード文字数 3,965文字

「育月さん、お待ちしておりました。今日もよろしくお願いします」

 わたくしが小学生時代を過ごした場所、良い人が多く何かと便利がよい南国市。そこにある某スーパーマーケットに着くと、従業員用の出入口で店長さんが出迎えてくれた。
 このお店は農家の人が作った野菜の販売に力を入れており、中でも我が従妹のピーマンは大人気商品。販売会がある時は毎回、ちょっとした話題になったりしてるんですよ。

「いつも、お世話になって……ます。それでは、準備をさせて、頂き……ます」
「はいっ。こちらへどうぞ」

 俺達(列に並ぶ橙式ちゃん&クー以外)はスタッフルームに案内され、そこで野菜の担当者さんが、カゴに入ってるピーマン(育月が丁寧に包装してる)をチェックする。我が従妹に手落ちがあるはずはないけど、規則なので行われるのであります。

「……………………全て、チェックが終わりました。いつも通り完璧です」

 こうしてお客様に出せる商品だとわかると、いよいよ売り場に移動。晴れなら一階の駐車場で行うようになっており、本日は快晴なのでテントの下に行く。

「今回は、こちらで販売をするようになっています。後ろのクーラーボックスに飲み物がございますので、ご自由にお飲みください」

 店長さんは長テーブルの後方にあるデカい箱を指し、ペコリと一礼。販売開始までの間に別のお仕事があるそうで、彼は店内に入っていった。

「店側がテントとテーブルを設置してくれてるから、僕らは商品を売るだけだね――とそうそう。黒真さん金堂さん虹橋さん、難しくないから安心してね」

 高志おじさんが、にゅむ星人達に微笑みかける。
 今回異世界人トリオはカードの整理係に任命されており、これから一仕事あるのだ。ちなみにカードの正体は、あとのお楽しみです。

「にゅむっ、安心してやりますーっ。ゆーせー君のおじちゃんさんたちも、頑張ってくださーいっ」
「ええ、頑張ります。皆で力を合わせて、販売会を成功させましょうね」

 芽花おばさんが笑顔で応え、それぞれ下準備に取り掛かる。整列係の伯父さん伯母さんはスタッフの腕章をつけて並んでいる人の様子を窺い、販売係の育月と俺は小銭の数を改めて確認。もしかしたら不足するかもとサービスカウンターで両替をしたり、円滑に商品を渡せるようカゴの置き方を考えたりして…………ついに、正午となった。

「お客様っ、大変お待たせいたしました! 色紙育月さんが作った、美味しいピーマンの販売が始まりますよー!」

 テントの横で店長さんがマイクに叫び、長蛇の列から歓声が上がる。
 いや~、相変わらず人気があるなぁ。こんなにも支持を得られる人が従妹で、誇らしいよ。

「お1人様1袋で、左の列の方は育月さん、右の列の方は男子さんの担当となっております。どちらも同じ育月さんのピーマンなので、違いはありませんよ」
『バッカ、大ありだってーの! こっちだと、育月ちゃんと話せないじゃんっ』
『ついてねぇな。誰だよアイツぅ』

 俺は色紙優星だよ! 独りでやってると長引いちゃうから、店から二人態勢を提案されたんだよ!!

(……ごめんなさいね、優星)

 脳内でお客に回し蹴りを放っていると、育月がコソッと話しかけてきた。

(本当に、ごめんなさい。わたしって整ってるから、凡庸なアンタは辛い思いをしてしまうわね)
(…………なぁ。ソレ、ちっとも悪いと感じてないよね?)
(当たり前でしょ。非があるのは、美少年じゃない優星なんだから)

 ぼく、鼻で笑われた。……ねえねえ神様、なんでこんなヤツを美少女にしたの? もしかして、心が腐ってるからバランスを取ってるの? そっか、それなら納得だ。と自己解決して、細やかな抵抗をする吾輩。

「ゆ、優星兄様、もう販売して……ますよ。お客様が、お待ち……です」

 細やかな抵抗をしている間に幕が開いていて、猫かぶり姫はちゃっかり売っていた。
 あーはいはい。ボケーッとしててスミマセンでしたです。

「お客様、大変失礼いたしました。1袋4個入り、130円になります」

 ぼくは自分に与えられたお仕事を始め、心の中ではちょいと御説明をさせていただきますね。
 育月のは店内のもの(他の農家さんのもの)と比べると、少々お高い。でもこれでも利益は微々たるモノで、この子は食べる人のために努力しているんですよ。

「はい、百三十円――と、カードね。また書いてきますよ」
「ありがとうございますっ。またよろしくおねがいしますっ」

 俺は商品と名刺サイズのカードを渡して同様のカードを受け取り、後ろにいるレミアに渡す。そしたらお手伝い魔王勇者様は、にゅむむむむん。可愛らしくお目目をパチクリさせた。

「ゆーせー君ゆーせー君、ずっと気になってたんだけどね。このカードさんってなーに?」
「こいつは、感想カード。買ってくれた人に食べた感想を書いてもらい、直接渡す、あるいは店内の箱に入れて頂くようになってるんだよ」

 客観的に見たら、いけない点があるかもしれない――。育月は高評価を得た今でも、慢心することなく取り組んでいるのだ。

「ワシは小さい頃、学校で作った工作先生のアンケートを取って回ったぜよ。その時を思い出したにゃぁ」
「そうかっっ、これは幼い一面アピール! 子供のような面があるとアピッて、従兄くんの好感度を上げてるのね……!!

 シズナ、違います。
 はぁーぁ。従妹が登場してから、コイツは徐々に狂ってきてるなぁ。

「あ、その……兄様。また、お客様がお待ち……です」
「スミマセンまたもや失礼致しました! 130円になります!」

 あたくしは小さく頭を下げ、大慌てで販売を再開する。
 にゅむ、にゅむむん。ここからは、しっかりと集中。優星兄様(奴隷)は、それはもう健気に働くことにしたにゅむ。

『アンタ、育月さんとどういう関係? 彼氏じゃないよね?』
『ないない、それだとB専になっちゃうもん。アルバイトの人でしょ?』

 雨にも負けず風にも負けず、そんな言葉の暴力にも負けず、僕は引き続き健気に働く。そして暫く日本語という名の刃に耐えていると、スケバン風少女がやって来た。

《予想外 早めに並び この位置だ》
「先頭は、二時間前に並んでたらしいよ。ホントありがたいっスわ」
(そこの嬢ちゃんは、命を懸けてるからね。そうなるのは至当さ)

 コッソリとクーが敬意を表し、ピーマンを買った橙式ちゃんは《助かった おかげで野菜 食べれるぜ》と一句(?)披露。代金を立て替えた感謝(借りた分は、いつか必ず返したいらしい)を告げ、こちらに回ってスタッフの腕章をつける。
 彼女は俺の護衛で傍にいるついでに、雑用係になってくれるんですよ奥さん。一部英雄らしいトコはありましたが、他はそう思えない子ですわ。

「助かるよ、橙式ちゃん。わからないことがあったら、いつでも聞いてね」
《了解だ こっちのコトは 任せとけ》
「うん、ホントありがと。じゃあよろしくです」

 と素早く言葉を交わし、引き続きしっかり販売を行う。そうして心の中で(はははっ! もうミスはしないぞ!)と高笑いをしていたら、こんな声が聞こえてきた。


『カードにも書いてますけど、とっても美味しかったです。そうよね、千沙(ちさ)』
『チサね、ピーマン苦手だけど食べれたのっ。おねーちゃん、また買いに来るからねっ』
『は……はぃ。お待ちして……ます』


 これは、なんとも嬉しい話だ。
 育月が作る野菜は一般的な品種のため、本来なら『これだけは食べられる』ってのが起きない。なのにそうなったのは、この子の努力が実った証で――そりゃあ、頬が緩みますわな。

(…………よかったね、育月)

 俺はお客さんに1袋とカードを渡しながら、小さな小さな声で独りごちる。
 実はコイツって伯母さんの実家と進学の件で揉め、そのせいで疎遠になっちゃってるんだよね。でも兄ちゃんは、良い選択をしたと改めて確信したよ。

「従妹のピーマンを買って頂き、ありがとうございます! よろしければ、またいらしてくださいね――」
「ぉぉぉ……! なんという、ベジタブルパワー……!」

 ちょっとカッコいいことを思ってたら、次のお客が雰囲気をぶち壊した。レディーススーツをお召しになられた、美女さん。ベジタブルパワーってなんスか?

「ぬぉぉぉぉ……! これは、十万? まだまだあるの……!?
「あ、あのー。お客様?」
「はっ! すみません、つい我を忘れてしまいました」

 キャリアウーマンの見本のような女性は、我を思い出してクスッと笑う。そして珍妙な方――こほん。特徴のある大事なお客様は瞳だけを真剣にし、斜め左を見た。

「つかぬ事を伺います。このピーマンを生産した色紙育月さんは、あの方で間違いありませんね?」
「そ、そうです。それが、どうかされましたか?」
「………………いえ、なんでも。高確率で後日伺います、とお伝えください」
「へ? アナタは――」
「では、失礼します。自信作、じっくりと味わわせて頂きますよ」

 女性は俺の声を遮り、スタスタとその場を去った。
 今のは……別の日に、家まで買いに行くってことか? しかし…………ソレではないような感じがしたな……?

「に、兄……様。たびたび、すみま……せん」
「ああ悪い、お客様だよね。すぐご用意しますっ」

 同じ日に四度もミスをしちゃうと、育月に滅茶苦茶叱られますからね(超が付くくらい怖い)。俺は思考を切り替えて気を引き締め、にゅむむんにゅむん。以降は、一度も失態を演じませんでした。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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