前世譚4 ❀ 嵐の夜に

文字数 1,126文字

彼女に呪いについてたずねられた日の、午後のこと。


リカルドが家に戻ると。

食卓に、本が……。誰のものだろう?

手に取り、めくってみる。

機巧学専門書だ。

なんだリカルド、帰っていたのか

父様、ただいま帰りました。

ところで、この本は……

ああ、それな。おまえにやるよ

いいのですか? ありがとうございます!
(父様から、物をいただくのは、久し振りだ)
どうせ、タダでもらった本だし
どなたから譲り受けた本なのですか

いや、乱丁本だったのさ。

おまえがよく行く本屋で買ったが、店員の態度も悪くてね。

早く店を畳め」と、言ってやったよ

そんな……

そうしたら店主が慌てて、本のお代を返してきたのさ。


つまらない本だったが、金は戻ったし、ハズレを引いて得したよ

父親はニタニタ笑いながら、食卓を去った。


リカルドは泣き出しそうな表情で、本のページをめくった。

この本、どこにも乱丁なんてないじゃないか!


父の八つ当たりだ。なんてひどいことを……

だが父親を批難したところで、激高するか、はぐらかされるだろう。


もう何度そのような目に遭ったか知れない。

(お代を払って、謝罪をしなければ!!)

本と財布をカバンに入れ、リカルドは家を飛び出した。

雨が降る。しまった、傘を忘れてしまった!

ほどなくして、土砂降りとなった。

(本だけは濡れないようにしないと)

カバンを胸にかかえて、夜雨に打たれながら駆ける。


家々に明かりがともると、リカルドの目に涙がにじんだ。

(どの家も温かく見える。それなのに僕の家は、親は、なんて冷たいのだろう!)
本当に自分は、あの父親の子なのだろうか。
(本当の息子でないといい。顔も知らない僕の母様は、どこにいるのですか)
リカルドは雨天を仰ぎ、涙をぬぐった。

傘を忘れて、雨に打たれて、良かった……


泣いた顔で、謝罪をするところだった

彼女の店の前に着くと、もう一度顔をぬぐった。

今日はもうお店を閉めたんですね。

いつもより早い……。

裏の母屋からなら……

リカルドは母屋の玄関に行き、呼び鈴を鳴らした。
はい。どちらさまでしょう……

突然すみません、リカルドです

すぐに扉が開き、アリエッタが顔を出した。

リカルドさん!? びしょ濡れじゃないですか!

さぁ、中へ……

いえ、ここで。

あの、ご両親は在宅でしょうか?

それが、急な用事で隣町へ出ていて……

そうでしたか。

実は、どうしても謝罪したいことがあって、参ったのです

リカルドはカバンから、あの本を出した。
この本は……

父が「この本に乱丁があった」と申して、お代を返させたと聞きました。


僕が確認しましたが、乱丁などありません。

リカルドは、アリエッタに本を手渡す。

誠に申し訳ございませんでした。


もう一度お代を払わせてください

彼女へ、深く頭を下げた。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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