開始1時間の理不尽

文字数 5,357文字

さて、ようやくアプリを始めたわけですが、ここで言っておかなければならないのが、すべて当時の話ですよってことです。
アプリを始めたのが5年ほど前だと思うので、今はもっと改善されているだろうし、システムも変わっているとは思うんです。
5年前なんて、まだお笑いの第7世代誰も全国で売れてない頃ですよ。ミルクボーイの存在すら知らなかったし、まさかあの俳優が不倫して下衆呼ばわりされるなんて思いもしなかった頃です。それほど様変わりしていく世の中ですから、すべてを現時点と同じと考えてはもったいないと思います。
あと、すべて個人的な考えと経験であって、正論ではないです。私自身、モラルに反する軽率な行動も重ねているので、不愉快な思いをされる方もいるかもしれません。あらかじめご了承ください。

前置き長くてすみません。

ルカに勧められ、ハンバーグのなくなった鉄板プレートの前ですぐ登録した私ですが、その時の登録はまだ仮登録でした。帰宅し、シャワーを浴びて、深夜バラエティをだらだら流し、おやつくれと鳴き叫ぶ飼い猫二匹を膝に乗せながら、本登録を始めました。

ちなみに、仮登録だと男性側の写真やプロフィールの一部だけ閲覧でき、いいねを付けることもできます。ただメッセージのやり取りができません。これはアプリによって違うようで、私はその後別のアプリもいろいろやってみたのですが、仮登録だと相手の写真にモザイクがかかっているアプリもありました。
男性側のシステムは夫に聞いた程度のことしか知りませんが、仮登録は同じように、メッセージのやり取りができないそうです。本登録になると男性側は料金が発生するらしく、それもアプリにより様々ですが、私と夫が出会ったアプリでは1ヶ月だけ無料、あとは1ヶ月ごとに何円、3ヶ月ごとに何円、1年で何円、と期間を長く見れば見るほど割安になるのだとか。知人には、無料期間中に彼女作ってやる!と頑張って1ヶ月で恋人候補を見つけて退会し、見事お付き合いできて、1ヶ月で別れた人がいました。1年分を払って、1ヶ月中に彼女ができたという人も知っています。なかなかな心理戦に持ち込んでくれるシステムだな、と感心させられました。

本登録はプロフィールを埋めていく作業と、本人確認のできるものの写真提出がありました。私の時は免許証か保険証だったと思います。
これはさすがに危機管理能力が底辺の私でも、「これ怖いなぁー。個人情報そのものじゃん」と不安になりましたが、いざ写真を撮る段階に入ってみると枠組みが決められていて、不要な情報部分は黒く塗りつぶされているような形になってました。危機管理能力底辺なので、私はそれだけであっさり安心です。
どっちを提出したかは覚えていませんが、これがなかなか通らない・・・
重要な部分(氏名や年齢、免許証なら写真)が読み取れない、つまりピンボケなどしていると、容赦なく読み取り不能判断を下され、また写真を撮らされます。黒い枠組みと合わせるのが本当に大変・・・しかも私の膝には、おやつ欲しさに目をギラギラさせる猫が2匹もいます。猫と遊びたくて私の周りをうろうろするポメラニアンもいました。とてもじゃないが、写真に集中できる環境ではありません。
たぶん7回くらい撮り直しました。もうこの時点で疲労困憊、私は一旦眠りにつき、本格的なプロフィール作成は翌日に持ち越し。猫と犬は喧嘩を始めてうるさかったですが、ぐっすり眠れるほど疲れました。

プロフィールは簡単です。小学生の頃に流行ったプロフィール帳とほぼ同じです。仲良くもないクラスメートの為に書くよりはずいぶん有意義です。
ただここでも苦労したのは、写真。
1枚目は審査を通る必要がありました。これもアプリによって違うのですが、私が最初に始めたアプリでは、顔がはっきり映ってないものや加工のひどいものは却下されました。何でもOKなアプリもあります。
私は自撮りができないし、その時チャレンジしてみたものの部屋が汚すぎて写りうんぬん以前の話と気が付き、諦めました。友達と撮った記念写真などを編集で切り取り、難なくOKを出してもらい、やっとプロフィールが完成します。

ドキドキのログイン。

開始一番に
『今から30分以内に30人にいいね!を押しましょう☆いいね!カード30枚プレゼント!!』
と出てきました。

マッチングアプリしたことない方は、ちんぷんかんぷんですよね。当時の私もちんぷんかんぷんでした。
でもなにかを貰えるなら、やるしかありません。決して裕福でなかった育ちの私はそうするよう義務教育を受けてます(嘘)。

「よくわからんが、30人にいいね!を押せばいいんやな」

OKボタンを押したら、容赦なくバババババッと男性陣の写真が出てきます。遊戯王カードのアニメを思い出します。私は30分以内という制限があるので、プロフィールもろくに見ず、写真(つまりは見た目)だけでどんどんいいね!押しまくりました。

意外にも年下が多かった気がします。
22歳とかいて、え!?と驚いた覚えがあります。おじさんも普通にいるし、さらに驚かされたのは、60歳のおじいちゃんとかもいたことです。写真なかったので本当かどうかわかりませんが。

何分以内にこれを終わらせなさい。と言われたらできるだけ早く遂行したい私。開始15分で30人にいいね!をつけ終えました。
この15分、意外にも何の苦でもありませんでした。思えばモテたことのないこの人生、芸能人でもない男性の顔が目の前にどんどん突き出されて、それがタイプかそうでないかを指一本で選別していくこのシチュエーションは、なかなか面白い。かぐや姫ってこんな気持ちだったんじゃないでしょうか。嫌な女だな、かぐや姫。
しばらくアプリ内を散策し、どんなシステムなんだろうと調べている間に、いいね!をいただきました。私が15分以内にいいね!した内の一人が、私にもいいね!をしてくれたのです。

これはどのマッチングアプリでも一緒だと思いますが、いいね!とか、ハートとか、とにかく『私はあなたに好印象を抱いている』というアピールをした後、相手がその通知を受け取り、同じようにいいね!やハートを返してくれたら、マッチング成功の通知が来ます。お互い本登録されていれば、ここからメッセージのやり取りが始まります。逆も然り、いいね!やハートを貰っても、こちらが同じように返さなければ、向こうから一方的にメッセージが来たりはしません。

「おーっ!初めてのマッチング!」

正直、15分で一気に選んだ相手なので、誰だかよくわからない状態でしたが、思ったより早くマッチング成立したことに嬉しさが込み上げました。それからもちらほらとマッチング成立の通知が来て、私はワクワクした気持ちで、来た順番にメッセージを送りました。

忘れもしない、初めてマッチングした相手ヤマト。
確か運送会社のアルバイトで、若かったはず。プロフィールは曖昧だが、私はこの名前をなかなか忘れられないようになる。

『初めまして、まるこです(私のアプリ内でのニックネーム。某少年漫画の不死鳥キャラを心から愛している)。マッチングアプリ初めてですが、よろしくお願いします』

こんな感じのことを送りました。まぁ無難な感じです。今思えばちょっと固かったかもしれませんが、チャラすぎないという意味では、悪くなかったんじゃないかと自負しています。
ヤマト以降のマッチングした方々にも、おおかた似たようなメッセージを送りました。
ヤマトからはすぐ返事が来ました。

『いいね!の数多いね』

···ん?なんて?
初めましても自己紹介もなく、突然指摘されたことにびっくりしました。しかも私は彼が何の話をしているかさえわかりません。
アプリに慣れてきてからわかったことですが、私が最初に始めたアプリでは、マッチングした相手が何人にいいね!を押したかわかるシステムになっていたのです。今もそうなのかは知りませんが、あのシステムはなぜあったのか謎。アプローチくらい数打たせてくれや、その為のアプリちゃうんか。
しかし当時の私は、そんなことわかりませんでした。ヤマトの言う、いいね!の数が、どの数字を指しているのかわからなかったのです。

『いいね!の数って?』

アプリ初心者であることは伝えてあるので、素直に聞きました。ヤマトはすぐ返事をくれました。

『誰彼構わずいいね!しまくってるんだね、てこと。始めたばっかのくせに』

····伝わりますか、この不快感。私が心狭いだけならすみません。でも私は、なんかこの、小馬鹿にされたような、鼻を鳴らす音が聞こえてくるような文面に、ものすごくイラッとしたのです。

『30分以内に30人にいいね!してって言われたから、したよ』

『そんなにいいね!て人いた?普通もっと慎重になると思うけど。誰でもいいんですね』

即レスもだんだんムカついてきます。アプリに慣れた頃であれば、「私はきっかけくらいはフランクでいいと思ってるので、会う段階に慎重になるかな。考え方の違いですね!」なんてさらっとかわして、そのままフェードアウトできますが、この時は何が何やらわからないまま責められて、とにかく腹が立ちました。

重ねてヤマトから
『俺はちゃんと厳選していいね!してるから。軽い気持ちじゃないんだよね』

うるせーバーカ。
もう私の心は荒んでいます。元々育ちもあまり良くないので、接客業で培った愛嬌でいろいろ乗り越えてきましたが、素性の口の悪さといったら、両親はもちろん幼馴染もクラスメートも閉口する程です。

ヤマトを無視して、すぐルカに報告。マッチングアプリを始める男性の皆さま、女性の中にはこうやってやり取りやプロフィール画像を友人と共有する悪い奴もいるので、お気をつけください。まぁ、これはアプリ内に関わらず、出会いが街コンでも合コンでも何でも起こり得ることです。

「あー、いるんだよね、こういう奴。いいね!くれたってことは、俺のこと好きなんだろ?みたいな。実際はこれからのやり取りで、好きになるかどうかなのにね」

さすがアプリ慣れしているルカは、快活に笑い飛ばすだけで、怒りは共有されませんでした。そのお蔭で私も冷静になり、ヤマトのことは無視することにしました。

でも、女性でも男性でも、勘違いする人はいるかもしれない。

アプリを始めている=自分と同じ目的の人ばかり、というわけではありません。
例えば、Aさんが結婚前提の恋人を探す目的でアプリを使用していても、マッチングしたBさんは結婚までは考えておらず、とりあえずクリスマスまでに恋人が欲しい場合は大いにあります。
なんなら、恋人探しを目的としてない場合すらあります。一夜限りの相手だったり、ただご飯に行く友人だったり、不倫相手だったり、出張中に相手してくれる誰かだったり。
どんなにアプリ続けててもその見極めは難しいとは思うのですが、マッチングした後のやり取りでズレに気がつけることは多いです。そうした場合、誰かの紹介や合コンより、スパッと関係を断ち切れるのもアプリの良いところであり、悪いところでもあるかな、といった感じでしょうか。
どの道、アプリも結局ステージがネット上になっただけで、合コンや街コンと変わりません。きっかけであって、マッチングしてからがスタートです。そこからやり取りを重ねて、恋愛に発展するか否かではないでしょうか。

今となっては、写真とプロフィールだけで相手を吟味していたヤマトを、そんな悪い奴とは思わないのですが…いや、でもやっぱり、メッセージ思い出すと腹立つな。始めたばっかのくせに、て何だよ。長くやってりゃ偉いのか。

無視することにしたヤマトですが、あんだけ私を軽蔑していたくせに、それから1日に2~3回メッセージを送ってきました。

どの辺住んでるの?

音楽なに聞くの?

身長どれくらい?(これ聞いてくる男性はだいたい身長にコンプレックスを持っているとルカは言う)

仕事忙しい?返事、暇な時でいいよ。

普通の会話をする気になったのかと思い、たまに返事をすると、

いいね!した奴とどれくらいマッチングした?
もう会った奴いる?
今やり取りしてる中で俺何番目?

という面倒なことこの上ないメンヘラな返事が来るので、また無視を始めました。

『なんで無視するの?ブロックした?』

そんなメッセージが届いた時に、私は気づきました。そうだ、マッチング後でもブロックすればいいんだ。ありがとうヤマト。さよならヤマト。

何も言わずブロックすることもできますが、それはさすがに申し訳ない気持ちがあったので、最初のメッセージのやり取りでとても不愉快な思いをしたこと、そもそも価値観が合わないことをメッセージに送り、相手の言い分も返ってきてからにしようと思ったのですが、先にブロックされました。ヤマト、若いからか打たれ弱いな。

開始1時間で会ったこともない人から軽く軽蔑されるという、新鮮な体験から私のアプリ恋活は始まりました。開始早々、ネガティブな出来事で申し訳ないです。でもアプリ生活通しての感想は、とても疲れたけど楽しかった、なので、慣れないパリピ系のサークルに飛び込んでみた新入部員を見るような目で、見守ってください。

次回は、マッチングした人と初めて待ち合わせです。

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登場人物紹介

作者。アプリでの名前はまるこ。

寝ても覚めても少年漫画、夢見てばっか。

ミスチルの桜井さんが夢で彼氏として登場して以来、ミスチルの桜井さんが好き。

作者の幼馴染、ルカ。

竹を割るような、とはまさにこの性格。作者が何も包み隠さず話せる大事な友人。

男はチャラければチャラいほど良いと思っている。

作者の夫。

アプリの男性側の事情を監修。

元カノが多すぎて、デート先での思い出が作者との思い出か元カノとの思い出か、整理できていない。

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