雷少女の悩み
文字数 2,875文字
白の大地の隅に位置するとある街に、小さな研究所があった。そこでは昼夜とわず一人の少女が研究と発明を続けていた。
「ここをこうして、うーん。なーんか納得いかないんだよなぁ」
街の端に位置して目立たない大きな豆腐のような形と色をしたこの研究所は、(自称)天才発明家ニコの研究所である。
「全自動お掃除ロボットパタパタくんが完成すれば、掃除に悩む人を助けられる。そしたら感謝してお友達ができる。やっぱり私完璧!」
研究所の中はよくわからない機械や道具がそこらかしこに置かれており、足の踏み場に困ってしまうような状態だった。
そんな部屋の中央に置かれた大きな机の上に何やら機械の付いた箒をガチャガチャといじくっている少女の姿があった。この少女こそこの研究所の主、ニコである。
腰ほどまで伸びた薄紫の髪はサラサラしており、頭には左側のレンズにひびの入ったゴーグルをつけている。黒いクロップド丈の服を着ていることもあり、引き締まったお腹とおへそが顔を出している。黒の短パンからすらっと伸びる足には黒いハイソックスが肌を隠しており、茶色の厚底靴を履いている。
「よし、これで完璧! 後は動作確認だけすれば完成~!」
ニコは上から羽織っていた髪色よりも赤みがあるジャージを少し脱いだ。
完成したパタパタくんは、茶色の箒に手足がついているというへんてこなロボットだった。
「それじゃあ全自動お掃除ロボットパタパタくん、起動!」
ニコは机の上にあるパタパタくんを研究所の床に立たせると、箒の持ち手部分についているボタンを押してパタパタくんを起動した。
うぃんうぃん
パタパタくんはボタンが押されると手足を動かしながら体を揺らして床を掃いていく。
「よし! 動作に異常な……し?」
うぃんぎぃうぃんぎぃ
パタパタくんの速度がどんどんと上がっていき、研究所の中を走り回る。
「わわわわわ、止まって、止まってよぉ」
うぃんうぃんうぃんぎぃぎぃぎぃ
高速に走り回っているパタパタくんは今度はニコへと近づき始めた。
「うわわわ」
バーン!
「けふっ。今日も失敗だぁ」
顔を真っ黒にして黒い息を吐く。さっきまでサラサラだった髪もボサボサになってしまっている。
ゴロゴロドーン!
ニコはタオルで顔についた煤をふき取っていると、先ほどの爆発とは比べ物にならないほどの轟音が宙を翔けた。
「何々!? 何が起きたの!?」
ニコは慌ててジャージを羽織り、髪を手である程度直しながら研究所の扉を開けて外へ出る。すると、研究所の後ろに広がっている森から黒い煙が立ち上がっているのが目に入った。
「何!? 火事? このまま広がったら研究所まで燃えちゃうよ!」
ニコは慌てて研究所にあるホースを持ち出すと、研究所の横にある井戸の中に端を投げ入れた。
「ちゃちゃっと鎮火しなきゃ!」
ニコはそのままの勢いでホースを抱えたまま森の中へと走って行った。
「煙がすごい、火の勢いはまだ強くないけど誰かいたら大変だよ」
ニコは大きく立ち上っている黒い煙を頼りに森の奥へと更に入っていく。すると、どこかからすすり泣く声が聞こえてくる。
「誰かいるの! 返事して!」
声のする方へとニコは進む。火災現場が近くなってきたこともあり、火が現れ始める。ニコは持ってきたホースを構え、水を思いっきり放出し、火を消しながら声の方へと進んで行く。
「はぁ、はぁ、誰かいるの?」
「近づかないで!」
ニコはおそらく発生源であろう木々が燃え、倒れたことによって少し開けたところまでやってきた。行動が早かったおかげか、火はほとんど消火できていた。
「危ないよ! 一緒に逃げよ!」
「ダメ、私の力で、みんなを不幸にしちゃう。また燃やしてしまうかもしれない」
そこにいたのは、どこかで見たことのある緑の蛍光色の髪の少女が、体育座りで泣いているのがわかった。その頭からは緑色の角が生えており、背中と腰辺りには青黒い羽と尻尾があった。その見た目から竜人であることが理解できた。
「どういうこと?」
ニコが少女に近づくと、少女の角から緑色の雷がニコの方へと飛んでくる。
「わわわわっと」
ニコはそれを間一髪で避けると、彼女が悩まされている力の大体を理解した。
「私は、誰も傷つけたくないのに」
鼻をすすりながら、少女はそう言葉を溢した。頑張って近づきたいニコだったが、中々近づけないでいた。
「大丈夫、私がその悩みを解決しちゃうから」
「無理だよ。傷つけちゃう」
少女の悲しい声色とは裏腹に、彼女から放たれる雷は落ち着く様子はなかった。それでもニコは諦めなかった。
「私も、発明が好きだけど、私の発明で誰かを傷つけちゃうんじゃないかって怖くなっちゃうこともある。だけど、私はみんなを笑顔にする発明家になりたい。お友達も欲しい。だから、私が助けてあげる!」
ニコはそう言って超!魔導転移型思考蒸気義肢『ワット』で少女を包み込む。
「すごい電気。でも負けないんだから!」
ニコは今にも煙を上げそうな『ワット』で電気が収まるまでなんとか静電気を受け止め続けた。
それからしばらくすると、電力を放出しきったのかまとわりついていた電気は嘘のように無くなっていた。
「えっと、ありがとう、ございます」
「え、あ、その、ふ、普通のこと、しただけだよ」
ニコは必死だったため、先ほどまでは饒舌に話すことができたが、いざ面と向かって話をしようとすると、どうも人見知りが発動してうまく話せそうになかった。
「あの、どこかでお会いしたような?」
少女はそう言って首を傾げる。ニコもそれとなく記憶をたどる。数秒考えたのち、一つの記憶に辿り着く。
「あ! ジェットレブの実験の時の!」
ニコは前に海で行っていたジェットレブの実験の際に協力してくれた少女が彼女であることを思い出した。
「あの時の……また、助けてもらっちゃって、すみません」
「い、いいよいいよ。私も、この前は助けてもらったわけだし」
お互いに人と話すことに慣れていないせいもあり、会話と会話の間に変な空気が流れる。
「その、さっき言ったこと、本当ですか? 友達になってくれるって」
「と、友達!? 本当にいいの?」
ニコは自分で発言したにも関わらず、それが本当になると思っていなかったため、驚きの表情が隠せずにいた。
「こんな、危ない私でもいいなら」
少女は顔を赤面しながら、少し顔を下に逸らしながらそう言った。
「こ、こちらこそよろしくだよ! 念願の、友達!」
ニコは初めて友達ができたという興奮から少し体が熱くなるのを感じた。
「私はトネルム、これからよろしくお願いします」
トネルムと名乗ったその少女は、ぺこりとニコに頭を下げた。
「こちらこそ。私の名前はニコ、絶対トネルムちゃんの力をどうにかしてあげる」
「ありがとう!」
トネルムは、ニコの言葉に今日一番の笑顔でそう返した。
ゴロゴロドーン!
空に轟音が走ったかと思うと、空から落ちた雷は、トネルムの角へと落下した。
「え、?」
「ニコちゃん、助けてぇ!」
再び雷をまとってしまったトネルムを助けるのはまた別のお話。
「ここをこうして、うーん。なーんか納得いかないんだよなぁ」
街の端に位置して目立たない大きな豆腐のような形と色をしたこの研究所は、(自称)天才発明家ニコの研究所である。
「全自動お掃除ロボットパタパタくんが完成すれば、掃除に悩む人を助けられる。そしたら感謝してお友達ができる。やっぱり私完璧!」
研究所の中はよくわからない機械や道具がそこらかしこに置かれており、足の踏み場に困ってしまうような状態だった。
そんな部屋の中央に置かれた大きな机の上に何やら機械の付いた箒をガチャガチャといじくっている少女の姿があった。この少女こそこの研究所の主、ニコである。
腰ほどまで伸びた薄紫の髪はサラサラしており、頭には左側のレンズにひびの入ったゴーグルをつけている。黒いクロップド丈の服を着ていることもあり、引き締まったお腹とおへそが顔を出している。黒の短パンからすらっと伸びる足には黒いハイソックスが肌を隠しており、茶色の厚底靴を履いている。
「よし、これで完璧! 後は動作確認だけすれば完成~!」
ニコは上から羽織っていた髪色よりも赤みがあるジャージを少し脱いだ。
完成したパタパタくんは、茶色の箒に手足がついているというへんてこなロボットだった。
「それじゃあ全自動お掃除ロボットパタパタくん、起動!」
ニコは机の上にあるパタパタくんを研究所の床に立たせると、箒の持ち手部分についているボタンを押してパタパタくんを起動した。
うぃんうぃん
パタパタくんはボタンが押されると手足を動かしながら体を揺らして床を掃いていく。
「よし! 動作に異常な……し?」
うぃんぎぃうぃんぎぃ
パタパタくんの速度がどんどんと上がっていき、研究所の中を走り回る。
「わわわわわ、止まって、止まってよぉ」
うぃんうぃんうぃんぎぃぎぃぎぃ
高速に走り回っているパタパタくんは今度はニコへと近づき始めた。
「うわわわ」
バーン!
「けふっ。今日も失敗だぁ」
顔を真っ黒にして黒い息を吐く。さっきまでサラサラだった髪もボサボサになってしまっている。
ゴロゴロドーン!
ニコはタオルで顔についた煤をふき取っていると、先ほどの爆発とは比べ物にならないほどの轟音が宙を翔けた。
「何々!? 何が起きたの!?」
ニコは慌ててジャージを羽織り、髪を手である程度直しながら研究所の扉を開けて外へ出る。すると、研究所の後ろに広がっている森から黒い煙が立ち上がっているのが目に入った。
「何!? 火事? このまま広がったら研究所まで燃えちゃうよ!」
ニコは慌てて研究所にあるホースを持ち出すと、研究所の横にある井戸の中に端を投げ入れた。
「ちゃちゃっと鎮火しなきゃ!」
ニコはそのままの勢いでホースを抱えたまま森の中へと走って行った。
「煙がすごい、火の勢いはまだ強くないけど誰かいたら大変だよ」
ニコは大きく立ち上っている黒い煙を頼りに森の奥へと更に入っていく。すると、どこかからすすり泣く声が聞こえてくる。
「誰かいるの! 返事して!」
声のする方へとニコは進む。火災現場が近くなってきたこともあり、火が現れ始める。ニコは持ってきたホースを構え、水を思いっきり放出し、火を消しながら声の方へと進んで行く。
「はぁ、はぁ、誰かいるの?」
「近づかないで!」
ニコはおそらく発生源であろう木々が燃え、倒れたことによって少し開けたところまでやってきた。行動が早かったおかげか、火はほとんど消火できていた。
「危ないよ! 一緒に逃げよ!」
「ダメ、私の力で、みんなを不幸にしちゃう。また燃やしてしまうかもしれない」
そこにいたのは、どこかで見たことのある緑の蛍光色の髪の少女が、体育座りで泣いているのがわかった。その頭からは緑色の角が生えており、背中と腰辺りには青黒い羽と尻尾があった。その見た目から竜人であることが理解できた。
「どういうこと?」
ニコが少女に近づくと、少女の角から緑色の雷がニコの方へと飛んでくる。
「わわわわっと」
ニコはそれを間一髪で避けると、彼女が悩まされている力の大体を理解した。
「私は、誰も傷つけたくないのに」
鼻をすすりながら、少女はそう言葉を溢した。頑張って近づきたいニコだったが、中々近づけないでいた。
「大丈夫、私がその悩みを解決しちゃうから」
「無理だよ。傷つけちゃう」
少女の悲しい声色とは裏腹に、彼女から放たれる雷は落ち着く様子はなかった。それでもニコは諦めなかった。
「私も、発明が好きだけど、私の発明で誰かを傷つけちゃうんじゃないかって怖くなっちゃうこともある。だけど、私はみんなを笑顔にする発明家になりたい。お友達も欲しい。だから、私が助けてあげる!」
ニコはそう言って超!魔導転移型思考蒸気義肢『ワット』で少女を包み込む。
「すごい電気。でも負けないんだから!」
ニコは今にも煙を上げそうな『ワット』で電気が収まるまでなんとか静電気を受け止め続けた。
それからしばらくすると、電力を放出しきったのかまとわりついていた電気は嘘のように無くなっていた。
「えっと、ありがとう、ございます」
「え、あ、その、ふ、普通のこと、しただけだよ」
ニコは必死だったため、先ほどまでは饒舌に話すことができたが、いざ面と向かって話をしようとすると、どうも人見知りが発動してうまく話せそうになかった。
「あの、どこかでお会いしたような?」
少女はそう言って首を傾げる。ニコもそれとなく記憶をたどる。数秒考えたのち、一つの記憶に辿り着く。
「あ! ジェットレブの実験の時の!」
ニコは前に海で行っていたジェットレブの実験の際に協力してくれた少女が彼女であることを思い出した。
「あの時の……また、助けてもらっちゃって、すみません」
「い、いいよいいよ。私も、この前は助けてもらったわけだし」
お互いに人と話すことに慣れていないせいもあり、会話と会話の間に変な空気が流れる。
「その、さっき言ったこと、本当ですか? 友達になってくれるって」
「と、友達!? 本当にいいの?」
ニコは自分で発言したにも関わらず、それが本当になると思っていなかったため、驚きの表情が隠せずにいた。
「こんな、危ない私でもいいなら」
少女は顔を赤面しながら、少し顔を下に逸らしながらそう言った。
「こ、こちらこそよろしくだよ! 念願の、友達!」
ニコは初めて友達ができたという興奮から少し体が熱くなるのを感じた。
「私はトネルム、これからよろしくお願いします」
トネルムと名乗ったその少女は、ぺこりとニコに頭を下げた。
「こちらこそ。私の名前はニコ、絶対トネルムちゃんの力をどうにかしてあげる」
「ありがとう!」
トネルムは、ニコの言葉に今日一番の笑顔でそう返した。
ゴロゴロドーン!
空に轟音が走ったかと思うと、空から落ちた雷は、トネルムの角へと落下した。
「え、?」
「ニコちゃん、助けてぇ!」
再び雷をまとってしまったトネルムを助けるのはまた別のお話。