スキンシップ2

文字数 544文字

 ボディランゲージが常道の国に住んでいたわけだから、日常茶飯事なのだと思っていた。
 かつてのアルバイト先の後輩だった喜秋は玄関に立ち尽くしたまま、顔を赤くして、けれど眉を寄せて、ジッと淡島を睨むようにしている。
 そんな複雑な彼の表情を見て淡島は心配になっていたのだけが。
 どうも彼が挨拶をするかしないかでぐらぐらと揺れているらしいと悟ってからは、何だか微笑ましい気持ちになって、緩みそうになる口元を必死に我慢するのに大変だ。
 頬にキスをする、淡島から見れば映画みたいな挨拶は、本場の人でも苦手な人が居るようである。暫らく黙っていた喜秋はやっと、けれどぎこちなく動いて、ちょいと淡島を手招きした。

「……こっち、来い。顔上げろ」
「……ちょ、なん、」

 彼があまりにもぎくしゃくしているものだから、何だかこちらまで緊張してきたではないか。玄関に立っているから、いつもと違って目線が近い彼の顔に自分の顔を近づけて、真っ赤になる。冷や汗の滲んでいるのが解る至近距離。跳ねる鼓動。真っ赤になった顔。ジッと自分を見つめてくる彼のエメラルドグリーン。もう良いから、早く終わらせてくれないだろうか。きっと彼も、同じ事を思っているはずだ。

「喜秋君は黙ってたら格好ええて事は、認めちゃるわ」
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