エピローグ

文字数 662文字

「ねえ、今話題になってる作家の話知ってる?」と一人の女が言った。その隣には同じくらいの背丈の男が歩いていた。

「あー、なんちゃら平和賞っていう昔の賞を受賞した人でしょ」と男は言った。

「そうそう。随分昔に出版されたんだけどね、AIロボットと人間の関係性をテーマにした本なの。ワタシ普段本なんて読まないんだけど、ちょっと気になって読んでみたのよ」

「どうだった?」

「すっごい悲しい話だった。なんの救いのない終わりでね」と女は言った。「でもワタシは嫌いじゃなかったわ」

「いったいどんな話なのさ?」

「主人公の男と少女型のロボットが一緒に暮らしていたんだけど、ある日突然少女型のロボットは誘拐されちゃって記憶を失っちゃうの。綺麗さっぱりね。それでも男はどうにかしてそのロボットを買い戻すことに成功するんだけど、記憶がないから今までのことはさっぱりなにも覚えてない。でも、一つだけ覚えてる言葉があってね。それが『ただいま』だったの」

「なんだ、いい話じゃないか」

「まあそこまではね。でもそれから二人の波瀾万丈な話が始まっていくのよ」と女は言った。

「ふうん」と男は宙を見ながら言った。「あとで家に着いたらその本貸してくれる?」

「え!? 珍しいね。ワタシがおすすめした本をちゃんと読んでくれるなんて」

「んーまあ、たまにはね」と男は言った。「それに僕たちにも関係ない話じゃないみたいだしさ」

 そう言って、男は女の手を握った。女の手は暖かな体温を帯びている。ドクドクと血管がリズムに乗って音を刻んでいる。そこに新しい愛の形があることは誰もが疑わない。
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