文字数 361文字

「最近一番楽しかったことは?」
「ありません」
「では、泣いたことは?」
「ありません」
「そうですか。まあ、鬱病になりかけというところかな。今日のところは薬出しとくから」

 人生とは堪え忍ぶもの。それが私の全てだった。そんな私と感情の起伏はいつからから縁遠いものとなっていて、ある日芥川の晩年の小説を読む中で、ふと「自分は精神病なのではないか」と思い至って、私は町医者に来たのだった。

 そして、医者の眉間をずっと見つめながら、いくつかの医者の質問に無表情のまま機械的に事実を端的に答えた。結果は鬱病。

 そうか、と思う。しかし一方で、私のことが分からないのは仕方ないのかもしれないが、果たしてそうだろうかとも思う。私が鬱病であるならば、これまでどうして活動してこれたのだろうか。疑問はあった。しかし、それもまたすぐ雪のように消えた。
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