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文字数 2,252文字

「そんな馬鹿馬鹿しい話が有るかッ⁉ 本当の事を言えッ‼」
「だから、全部、本当だ……」
 軍と警察の手際の悪さと連絡不足のせいで、大阪府内を出ない内に、「大阪」の警察の中でも一番体育会系で一番荒っぽく、しかも逮捕状なしでの逮捕権まで持ってる部隊に問答無用で逮捕。
 しかも……こいつらは……体育会系な上に「精神操作」に対する耐性を欠いてる連中だ。いや、体育会系のメンタリティだから「精神操作」に対する耐性を欠いてるとも言えるが。
 つまり、軍・警察に配属されてる政治将校である「准玉葉」の精神操作下に有るって事だ。
「大体、脱大ブローカーとは何だ? わざわざ、金を払って、このシン日本首都から逃げ出そうとする阿呆が、どこに居る?」
 まず、この事実認識の齟齬を何とかして埋めないといけない。
 警察の中でも更にエリート部隊は……一〇年前の富士の噴火から、日本は立ち直っただけでなく、それ以前よりも経済的に発展してると信じている。
 ただし……ああ、ある「ただし書き」が抜けてる以外は間違っていないが、そこが問題だ。
 一〇年前の富士の噴火から、日本は立ち直っただけでなく、それ以前よりも経済的に発展してはいる。ただし、「大阪」と「本物の関東」などの富士の噴火の被災地は除く。
 更に、その話の齟齬を何とかした後は……俺達が大阪を出ようとした目的はシン日本首都政府と韓国の犯罪組織の間で起きたトラブルの解決の為だと云う事を、この頭のカテェ野郎にわからせなきゃいけない。
 もちろん、精神操作されてるコイツらは……日本唯一の正式な政権であるシン日本首都政府が外国の犯罪組織と何か取引してるとは思ってない。
 仮に諜報活動か何かの為に、外国の犯罪組織との間にトラブルが起きてると納得いただいたとしても……その外国の犯罪組織がシン日本首都政府を「わからせ」る為に、テロを起すなど信じるまい。
 何だったら、この馬鹿どもは……シン日本首都政府が日本のほぼ全土を支配してると思ってるかも知れない。
 最近は……精神操作とかされてる訳じゃないのに本気でそう思い込んでる中高年がボチボチ出始めてるようだが……哀しい事に現実は非情だ。
 日本の大半はシン日本首都の商売敵である㈱日本再建機構の統治下に有る。
「大体、『駄犬部隊』なんて馬鹿な名前の特殊部隊など聞いた事もないッ‼」
 そりゃ、あんたら警察のエリート様とは無縁な汚れ仕事専門部隊だからな……。
 多分、俺は死んだ目をしてるんだろう。
 そして、この野郎は……その俺の死んだ目を見て……俺が落ちる寸前だと思ってるようだ。
 ようやく判った。やってもない犯罪を自白()って、死刑になる馬鹿が……富士の噴火の前からゴロゴロ居た理由を……。
 今、巻き込まれてる理不尽な状況に比べれば……将来死刑になってもいいかも……なんて事を思っちまうような状況ってのは実在するんだ。
 いや、シン日本首都や富士の噴火前の旧政府時代は……いつ誰が巻き込まれるか知れたモノじゃないほど、有り触れた状況だったんだ。
 俺達は……それから、目を背けてきたんだ。
 ああ、この調子じゃアレだ……北朝鮮が韓国に併合される前に良く起きたズンドコ事態みたいな事になるぞ……。折角、外国から拉致してきた使えそうな人材を、事務手続きの手違いとか担当機関内外の連絡ミスやらで、間違って何年も収容所にブチ込んで、将軍様が「あ、そうだ。この前、拉致ったあいつを連れて来い」って言った途端に大騒ぎになるってヤツ。
「言い訳は出来んぞ。存在しない部隊の名を騙り……武器を所持し……そして、このシン日本首都に密入国を試みていた」
 待って下さい。
 何で、大阪の外に向ってるトラックに隠れてたのに、容疑は「大阪への密入国」になるんすか……?
 心の底では、そう思っても……口に出すのは無駄だと判る理性ぐらいは有る。
 理性的に考えると、その理性が状況をマシにするのを阻害してるのは明らかだが、他に事態を打開する方法が頭に浮かばねえ。
「し……失礼……します」
 その時、取調べ室のドアの向こうから声。
「何だ?」
「入ります」
「はあ? 誰が入っていいと許可……」
 次の瞬間……。
 ドンっ‼
 ドアが開くと同時に、1人の特務機動隊員が床に倒れ落ち……その首筋には穴……。
 それだけでも致命傷だが……見る見る間に、その穴が大きくなっていく。
 続いて部屋に入ってきた奴の長く頑丈そうな爪が、俺を取調べてた奴の顔を引っ掻き、傷口から血が……いや……血じゃない……。
 嫌な音と共に、奴の顔から吹き出た血の臭いは……みるみる間に腐臭へと変る。
「ふしゅる〜……ぅ」
 鬼の姿になった池田の爪に付いた血も……みるみる間に血ではない何かに変る。
「おい、クソ野郎が……。苦しんで死ね」
「があああ……ッ」
 池田の爪で引っ掛かれた顔の傷から……そいつの皮膚や肉が、どんどん腐汁と化していく。
「お前さぁ……」
「助けに来てやったんだぞ、何だ、その表情(ツラ)は?」
 こいつは……体は人間でも、(なかみ)は……異界の魔物。
 とは言え……この8年で人間臭くなった。異界の魔物のクセに妙に仲間思いだ。
 だが、やっぱり魔物は魔物だ。
 仲間を助けるやり方は……人間社会の常識をあっさり凌辱するような無茶苦茶なモノだった。いや、それだって俺達からすればそう見えるだけで、こいつには人間社会の常識を凌辱してるって意識さえ有るかも怪しい。
「えっと……何人殺した?」
「あ〜、この建物の中に居た奴、ほぼ全員だ……。って、お前ら、俺の仲間は除くけどな」
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