第1話

文字数 1,691文字

 数字が全てだ。
 これはその分野では超有名な?ある医師の座右の銘だ。およそ世の中では、個人、集団、組織などの評価は全て数字に換算して評価される、というのだ。
 成る程、確かに数字とは程遠い芸術の世界であっても、芸術祭、音楽コンクールなどでの優劣は、点数に換算され評価される。企業に至っては、営業利益、経常利益など業績はまさに数字のオンパレードである。受験もまた然り。
 私はこの言葉は分かってはいるが、嫌いである。数字が「全て」と言い切る所が気に入らない。数字に表れなければ努力も無駄だ、数字のために頑張ると、数字が目標になっている。数字は結果であって、目標ではないと思うのだが…。

 しかし、何かを発信する際に、数字が効果的なことも多々ある。
 北陸新幹線が福井まで延長になって東京- 福井間が近くなった、だけではピンとこない。最短で2時間51分で結ばれる!と付け加えるとより具体的で説得力がある。
 さて、酒呑みにも同じことが言える。ただの「酒好き」「大酒呑み」では千差万別でピンとこない。私は美味しい酒をたくさん呑むことが好きだから、何を何杯呑んだか? お酒の4合瓶を一本空けたとか、呑んだ量が目に浮かぶ会話がいい。気分が高揚してくる。NOVEL DYAS の投稿原稿のネタがふと思いついたりする。
 当初、私は麦焼酎の水割りを好んで呑んでいた。麦焼酎にはほんのりとした透明感があり、少しの塩気が欲しかった。そこで梅干を入れていた。梅干は潰すと潰れた果肉で底の方が濁るので潰さない。そして一杯お替りするごとに前のグラスの梅干を新しいグラスに移して足していく。こうすると梅干の数を数えるだけで何杯呑んだかがすぐに分かる(写真1↓グラスは「さわやか」だが、中身は麦焼酎)。

 これは名案だ、と自画自賛していたが、グラスが梅干で占められ、氷と合わせると焼酎が入るスペースがすぐになくなる。

 それから、芋焼酎の水割りをしばらく好んで呑んだ。芋焼酎は癖があり甘い。澱粉の甘さだ。これには柑橘系が合う。以来、梅干がカットレモンになった。これも、一杯呑む度にカットレモンを一切れずつ足していく流儀に変わりはない(写真2↓グラスは「爽」、中身は芋焼酎)。

 これもすぐにグラスがカットレモン占められて、芋焼酎があまり注げなくなる。

 そこで最近は、地元の甲類焼酎「(さわやか)」にスライスレモンを入れている。甲類焼酎「爽」は癖も味もなくホント、(さわやか)呑むこと水の如し、である。スライスレモンの柑橘系の味が鮮明で、レモンスカッシュのような爽快感がある。レモンスライスは何枚入れてもそうは体積を取らない。

 先月(2024年4月)のある日、ご縁があって知り合った酒田の居酒屋に行った。今回は5回目の訪問で、店や常連客にも慣れてきたので、初めて「爽」のボトルを入れた。
 女将や常連のオバさんと話が弾み、「爽」の水割りレモンスライス入りをがぶがぶと呑んだ。グラスのレモンスライスの枚数も数えるのが大変だった(写真3↓グラスの中身は「爽」)。

 「よく呑みますねぇ。」
と、常連のオバさんに尋ねられた。
 「あ~~、んだんだ。今日は楽しく呑めるから、自然に酒も進みますょ、んだ。」
 そして、グラスを指さして、
 「ん~~、ほら、一杯に一枚ごとレモンスライスを入れていくから、これを数えればどれくらい呑んだかすぐに分かるんです。」
 「一枚、二枚、三枚~、四枚…。まるで番町皿屋敷のお岩さんみたいでしょ?」
 どや顔でいる私に、
 「でも、どれくらい呑んだかは、ボトルの減った量を見れば一目瞭然じゃん?」
 「えっ!? …。」
 数字には足し算だけではなく引き算もあったのだ!
 世の中には只者ではない人がたくさんいる。私のお酒の呑み方の流儀はガラガラと音を立てて瓦解した。

 今度はあらかじめレモンスライスを目標の10枚入れておいて、一杯呑むごとに一枚ずつ取り出していく、というのはどうだろうか…? そうすれば呑めば呑むほど注げる焼酎の量も増える。
 結局、酒呑みも数字を挙げていることに気が付いた。酒を呑むのも数字が全てだった。(お(しま)い)
(2024年5月)
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