詩小説『また、あの夢を見ていた』3分のオーバーラップ。

エピソード文字数 831文字

また、あの夢を見ていた

また、あの夢を見ていた。
どうやら僕の頭に住み着いているらしい。

木造の病院。
廊下を歩けばぎーっときしむような。
幼き頃、ベッドの上が地球の全てだった。

だから、眺めている。ずっと眺めている。
小さな窓にある世界を。
サッシは額縁。外の景色は絵画と。
そんなとこだった。

星座を越える夜。落ち葉を集める風。

飛行機雲の溶ける空。夏の魔物。

渡り鳥の群れ。港を立つ貨物船。

一歩で良かった。
この病室から抜け出せたなら。

そう、窓の外の景色へと、踏み出せたなら。
果てしなく世界は広がるのに。

そんな叶いもしない想いを抱いて、
僕は半分、夢の中へ。

見舞客の来ない僕を見兼ねた看護師は
呟いた。

ずっと窓の外ばっかり眺めて、
可哀想に。
窓の外は白い壁しか見えないのにね。

また、あの夢を見ていた。
どうやら僕の頭に住み着いているらしい。

目が覚めた。

風に、たなびくカーテン。
その隙間から差し込む光。
開け放った窓辺。

身体が熱くなっていた。
きゅーっと胸を締め付けるような。

ベランダから、裸足の君が、
ベッドの上、僕のもとへと。

すっかり大人になって。
雪解けのような恋をして。

か細い指先で、
あなたは僕の寝癖を撫でる。

汗の滲む僕の額に、
あなたは冷たい手を当てた。

僕の夢をなだめるように。
幼い心をあやすように。

気が向くのなら、
出かけようなんて、

手招きするように、
僕を誘う。

そうやって、青空の下へと、
連れ出してくれるあなただった。

光の中へと、導くように、
僕の頬へキスをして。

今、気づいた。
幼い頃からずっと見続けていた、
あの、同じ夢。

名前も知らない幼いヒロインが、
僕の手を握りしめて。
その横顔は、微笑んでいる。

あの、少女は君だったのか。

コートを羽織ると、
玄関を開ける。
生温い風に包まれた。

もう、あの夢は、
見ることがないだろう。
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登場人物紹介

主人公はあなたです。それぞれの恋愛模様を『詩小説』で。

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