誕生

文字数 453文字

リヴォル歴六百三十三年 一月一日 0:00

 イオゴ国、首都シルヴェノールのリャイ市。市内、とある病院。
夫婦が出産を迎えようとしていた。
苦しそうに唸る母。祈るように手を組む父。忙しく立ち働く看護師たち。
どこにでもある風景だった。
そして、遂に、一際母が唸る。
はっとしたように、父が手を解く。
看護師たちが、安堵の表情を見せる。
「おめでとうございま・・・・・・」
歓声が一瞬だけ湧いた。
病室はどこにでもある喜びに満ちる、はずだった。

はずだった。

空気が凍った。
「まさか・・・・・ッ!?」
響くはずの泣き声は、響かなかった。
代わりに、狼狽える人間たちを、綺麗な瞳が見つめる。
生まれたばかりの赤ちゃんが、


つややかな、長い黒髪。ふさふさのまつ毛に碧眼。形の良い鼻。引き締められた唇。
美しい彼女は、紛れもなく、「神の子」だった。
蒼白になる父母。
自身の子が「神の子」になるということは、12年たてばその子を喪うという事だ。
運命が決まっている子を、誰が愛せるのだろう。
震える手を握りしめる者は、いない。
病室に、静寂が流れた。
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