食べ物人間

文字数 1,349文字

食べ物人間培養研究所にて

研究室ではある一人の実験結果の成功例が
今まさに世に出ようとしている所だった

「森下博士、ついに完成しましたね」

「あぁ、長かったが研究の成果がようやく形になって
本当に、本当によかった」

「これで世界の食料問題が一挙に改善されます!」

今まさに培養液から出てきたばかりの
華奢な体躯の少女に向かい
タオルでがしがしと身体を拭きながら
森下博士は質問をする

「君はどのような存在かな?」
少女は眼を輝かせ
天真爛漫(てんしんらんまん)といった感じで博士に言った

「私は食べ物人間です!
お腹を空かせた人間をお腹いっぱいに
するのが生きがいです!」

その発言にうんうんと森下博士も浪波(なみわ)助手も満足し
釣られるように笑顔になった

「まずはこの近くのホームレスで人体実験をする
その後、機を見て一気に量産化体制を整えるのだ」

「人々は食べ物人間の存在を認めてくれるでしょうか?」

「それはわからない・・・が、倫理や道徳などといったものを盾に拒むもの
そんな色眼鏡は私が全て叩き割ってみせる」

「博士・・・」

「それでは、指定のポイントまで移動を開始したいと思います!」
神妙な二人とは裏腹に、まるで散歩にでもいくような口振りで
食べ物人間は研究室から飛び出していった

東京都港区某所

食べ物人間はステップを踏みながら
指定地域まで移動した
手に額を当て、どれどれーっと該当対象のホームレスを探し出す
まずは手頃な、一人でいる人間のほうがいい
複数人だと騒ぎになって任務遂行が困難になる可能性があるからだ

一通り見て周り、これだっと思う人物に声をかける
「こんばんわ!おじいさん!」
「あ?なんだお前は!」
「まぁまぁ・・・はい!これどうぞ!」

そう言うと食べ物人間は右腕を引きちぎり
ホームレスの老人に差し出した

「うわあああああ!なにやってるんだお前は!?」

ぼたぼたと鮮血を滴らせ
右腕を左腕でしっかりと笑顔で握っている
痛覚はないようだ
驚愕するホームレスの老人
しかし食べ物人間はどこ吹く風だ

「大丈夫、ちゃんと生えてくるよ!」
「そういう問題じゃない!」
頭をぶんぶんと振り、後ずさりする老人

「ば、化け物だ・・・!」

「いいから食べて食べて」

「じょ・・・冗談じゃあ・・・や、やめろぉ!うわっ!」

無理やりに口に含ませる食べ物人間
五指が歯にかかり、人間の生々しい繊維が一つ一つ
ぶちゅりぶちゅりと潰されていく
血と肉の味が口いっぱいに広がり
ごくりと嚥下すると老人は呟いた

「う、上手い・・・」
「でしょー!」

「お、お前は一体・・・なんだ!?」

「私?私は食べ物人間・・・だよっ!」
ビシッと左手で決めポーズをすると
ニカッと老人に微笑むのだった

食べ物人間は瞬く間に
ホームレス間で大人気となり

ひいてはその奇抜すぎる食事方法と
相反する味の良さが話題となった

当然、博士や助手が危惧したように
倫理や道徳を持ち上げ
食べ物人間の存在を全面否定する団体は数多く現れたが
結局のところ
深刻さが年々増して
もはや一刻の猶予も許さない状態へと
陥っていた食料問題に後押しされ
食べ物人間はその存在を認められることになり
反対の声を押し切って量産されることとなった

「困っている人を助ける!」

それが食べ物人間達の合言葉であり
世界を飢餓から救う英雄として崇められるようになるまで
そう時間はかからなかった

飢餓救済projectが発足したのだった
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