第5話

文字数 844文字

次の日の朝、若者は高層ビルの前にいた。空は曇天模様だが、心は晴れ晴れとしている。ビルを見上げる。最上階は雲がかかっていて、もはや見えない。若者は、あまりの高さに圧倒された。



エントランスに入ると、だれもいない。広いロビーは、しーんとしている。床や壁は大理石かなにかだろうか。おごそかな雰囲気である。歩くと自分の足音だけが重みをもった音でひびく。いよいよだと、胸が高鳴る。反面、どこか不安でもあった。

ずいぶんと向こうに、金色のとびらがみえる。エレベーターのようだ。近づいてみたが、階数をしめすボタンの類はない。ただ、横に黒い箱型の装置があった。若者がその箱をのぞきこむと、ポーンと音がした。



「認証されませんでした。招待コードをかざしてください」

黒い箱が、よくようのない声で指示した。若者は、招待メールに不思議な模様の画像データが添付されていたことを思いだした。あれが招待コードかもしれない。スマホ画面にその模様を表示させ、箱にかざした。

「認証されました。最上階までご案内します」

とびらが開き、若者はエレベーターにのりこんだ。内部をみわたす。やはり階数表示やらボタンやらは、みあたらない。とびらが閉まる。ただの四角い空間。



すうっと、内臓が浮くのを感じた。動き出したようだ。しかし、なかなか最上階につかない。最上階は、雲に隠れて見えないほどの高さだ。到着までには、まだしばらく時間がかかるのかもしれない。ところでこのビルには、最上階以外のフロアはないのだろうか。一階と最上階以外は、どうなっているのだろう。空洞なのだろうか。若者がそんなことを考えていると、ちんっと、ベルがなった。最上階に着いたようだ。
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