1-9 脱出、そして安心

文字数 989文字

 (はるか)を担いだまま無我夢中で蕾生(らいお)は走る。

 踏みしめるものがアスファルトに変わった時、サイレンは止まっていた。

 ライくん……もういい

 おろして

 蕾生(らいお)は抱えていた体をその場でおろす。


 周りを見回したが追ってくる者は見えなかった。

 どうなってるんだ……?
 きっとリンがうまくやってくれたんだろう
 (はるか)、あの子は一体──
 ……
 (はるか)……

(なんて暗い、怖い顔だ……)

 ごめん、驚いたよね
 ……

(無理して笑ってる……)

 とにかく今は食堂に戻ろう?

 後でちゃんと説明はするから

 ……わかった
 食堂まで戻ると、談笑する客達も、職員数人も、(はるか)蕾生(らいお)を特に気に留める素振りはなかった。
 あれだけの騒ぎに何も対処してこないなんてことがあるのか……?
 つまり、ここはそういう所ってことだよ
(本当は(はるか)はこの研究所を憎んでいるのか……)
 とりあえず、今はここを無事に出られるように祈ろう
 皆さまお疲れ様でした

 当研究所の一般公開プログラムはこれで終了いたします

 入館証をこちらにご返却のうえ、出口までどうぞ

 案内に従って客達が動き始める。

 (はるか)蕾生(らいお)もその列に紛れて気配を押し殺して動き、無事に通用口の扉から出ることができた。

 なあ、(はるか)
 うん

 とりあえず公園まで戻ろう

 二人は公園へと入り、ベンチに腰掛ける。

 周りには普通の人々の息遣いを感じられて、蕾生(らいお)は安心した。

 なんかさ、お腹空かない?
 そうかな

 ……そうかも?

 待ってて、そこでたこ焼き買ってくる
 (はるか)はたこ焼きを二パックとお茶のペットボトル二本を持って帰ってきた。

 渡されたたこ焼きは熱々でソースのいい匂いがしていた。

 はい、今日付き合ってくれた御礼ね
 高かったろ
 ハハ

 まあね、連休価格

 でもいいじゃん

 笑いながら(はるか)は自分の分のパックを開け、たこ焼きをひとつ楊枝で刺してそのまま口に運ぶ。
 んー、うまい

 やっぱさあ、与えられる食事よりも自分で調達してきたものの方が美味しいね

 お前、それ母ちゃんには言うなよ?
 やだなあ、お母さんのご飯は別!

 それ言っちゃうとたこ焼き買ったのだってお小遣いだしね!

 熱いたこ焼きをじっくり味わって食べ、ようやく一息ついた心地になった頃、(はるか)は意を決したように口を開いた。
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登場人物紹介

唯 蕾生(ただ らいお)


15歳。男子高校生

怪力なのが悩みの種

九百年前の武将、英治親の郎党・雷郷の転生した姿


周防 永(すおう はるか)


15歳。男子高校生

蕾生の幼馴染

九百年前の武将・英治親の転生した姿


御堂 鈴心(みどう すずね)


13歳。銀騎家に居候している少女

英治親の郎党・リンの転生した姿

永と蕾生には非協力

銀騎 星弥(しらき せいや)


16歳。高校一年生

銀騎詮充郎の孫で、銀騎皓矢の妹

鈴心を実の妹のように可愛がっている

永と蕾生に協力して鈴心を仲間に入れようとする


銀騎 皓矢(しらき こうや)


28歳。銀騎研究所副所長

詮充郎の孫

銀騎 詮充郎(しらき せんじゅうろう)


74歳。銀騎研究所所長

およそ30年前、長らく未確認生物と思われていたツチノコを発見、その生態を研究し、新種生物として登録することに成功した


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