第1話

文字数 1,126文字

 今年(2023年)は残暑になっても真夏日が続いた。
 さすがに9月になって聞く朝晩の虫の音は、どことなく秋の気配を感じる。が、風は生暖かい。
 
 外来で、(山形県)庄内に生まれ育った80歳過ぎの男性患者に尋ねた。
 「いやぁ、今年はあっちいですねぇ~?」
 「んだの~。こんなあっちぃのは初めてだの。」
 「こんなに真夏日が9月になっても続いて、今年の冬は雪が降るんですかねぇ…?」
 「んだ、降る。今年は雪は多いの。暑さとは関係ねぇ。」
 患者さんはそう断言する。私はその理由に興味を持った。
 「そうですかねぇ…?」
 「んだ。…。」
 その理由を要約すると、庄内では例年、1年間の降水量と降雪量の和はほぼ一定なのだそうだ。今年の夏は降水量が少ない。実際の数字は知らないが、畑が乾いている。枝豆の実が(ふと)らなかった。梨も実が小さい。芋煮に使う里芋も枯れたか、枯れなくても実が小さい。井戸の水量が少ない、など身の回りの実例を挙げてくれた。だから、その分、今年の降雪量は多い、のだそうだ。
 成る程…。
 私が調べ得たところでは、庄内町は、年間平均気温は10.6 °C、 降水量は平均して 2078 mm で*、降水量と積雪量を足すと毎年ほぼ一定であるというデータは見当たらなかった(*Climate-Data.org > 日本 > 山形県 > 庄内町 から引用)。また今年の夏の少雨については、酒田の8月1カ月間の降水量は 13.0 mm で平年値 205.6 mm の約6%、鶴岡では 31.5 mm で平年値 198.9 mm の約16% であった(気象庁データから引用した)。
 庄内の平野部は地吹雪で有名であるが、雪は強風で吹き飛ばされ深深とは積もらない。ところが庄内地方は、東に月山(がっさん)、北に鳥海山、南に朝日連峰と、三方を山に囲まれていて、これらの山々の雪解け水による良質な地下水に恵まれている。
 庄内に生まれ育った人たちは、庄内を囲む鳥海山、月山、朝日連峰の山々に積もる雪を眺めて、その年の降雪量を感じ取っているのかも知れない。
 豊かな自然に囲まれ体得(たいとく)した感性なのだろう。
 羨ましい限りだ…。

 んだの~。

 さて写真(その1)は 2019年4月13日、雪を(いただ)いた月山を背景に下る普通列車キハである。羽越本線藤島(ふじしま) - 西袋(にしぶくろ)間で撮影した。

 次の写真(その2)は4日後の4月17日早朝、鳥海山を背景にした上り特急「いなほ」である。北余目(きたあまるめ) - 余目(あまるめ)間で撮影した。

 いずれの写真も早春の庄内であるが、背景の月山、鳥海山は残雪を戴きずっしりと重みが伝わってくる。「これらの山々に庄内は守られている」という庄内の人たちの言葉の意味が何となく分かる気がした。
 んだ。
(2023年9月)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み