帰り道

文字数 529文字

 あれは小学六年生の三月だった。
もうすぐ卒業。春の風も感じられるようになってきた。
「美香!卒業式の服どうする?」「なんかこの前買った服真っ黒~」「喪服じゃん(笑)」
下校中、小学生らしい他愛もない会話が弾む。
周りは田植えがされていない、土がむき出しの田んぼたち。心地よい風が通り過ぎ、下級生に追い抜かされていく。「ああ、もう卒業か」
 来年度が一か月後に迫っていた。四月になったら、小学校に居場所はない。戻ろうと思っても戻る事の出来ない生活。新しい日常はすぐ近くだった。
「まじで‼」「やば‼‼」
ドッと笑いが起きる。気づいたら友達たちは一歩先のところにいた。
 幸せだなぁ。みんなが笑って、笑って、笑っていて、本当にそう思った。写真にしたら、なんてきれいなんだろう。あいにく、下校中にカメラを持っている人はいない。
「カシャッ」心のどこかでシャッターが切られたような気がした。
 そうだ。私の頭の中にはずっと残るはず。写真には残らないけど、みんなは知らないだろうけど、私の中には残ってる。
 一瞬一瞬を大事にしたい、と感じた。本当に、本当にそう思った。

 今でも心に残るあの思い出は一生色あせることがないだろう。
 何気ない日常、それが一番大切なのだと気づかされた瞬間だった。
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