エピソード文字数 655文字

「信也、このまま黙って引き下がるのかよ!」

「紗紅、いいんだ。秀さんごめん。今日は帰るよ。店で騒いで悪かったな」

「いえ。信さん、また来て下さい」

 険悪な空気にも動じない店主は、信也に白いタオルを差し出したが、信也は濡れた髪を拭こうともせず店を出た。

 あたしは腹立たしい気持ちを抑え切れず、コップの水をあざみにぶちまけた。

「てめぇ!」

「あざみ、今日はやめとけ」
 
 ずぶ濡れになったあざみは、あたしに殴り掛かろうとしたが、宏司にたしなめられ踏みとどまった。

 あたしは店を出て階段を駆け上がり、ポケットから取り出したハンカチで信也の濡れた髪を拭いた。

「ありがとな。紗紅、これからどうする?飯食いそびれたから腹減っただろう。俺んちに来るか?」

「あたし……家に帰りたくないんだ」

「プチ家出かよ。しょうがねぇな。バイクに乗れよ」

「うん」

 バイクに跨がり、あたしは信也の背中に抱き着く。バイクを走らせ修理工場に戻った信也は、錆び付いた階段の下にバイクを停めた。

「この2階に住んでるんだ。汚いとこだけど、上がれよ」

「……うん」

 カンカンと音を鳴らし階段を上がると、朽ちた木製のドアが3つ並んでいた。

「社長は元暴走族。アパートの住人はみんな工場の従業員なんだよ」

「そうなんだ」

 今にも壊れそうなドア。塗装は落ち板も所々剥がれかけている。錆び付いた鍵穴に鍵を差し込みドアノブを回すと、ギーッと軋んだ音がした。

「通称、お化け屋敷」

「やだ。冗談キツい」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み