おわり

文字数 568文字

 わたしが大学を卒業し、就職のために土地を離れ、東京で落ち着いた生活を送るようになった頃、母が亡くなりました。お葬式のために土地に帰ると、そこにはやはり道代おばさんの姿がありました。
「あたしももう出て行こうと思ってさぁ」
 道代おばさんはそう言って笑いました。相変わらずあっけらかんとした美貌の持ち主です。母の死に顔はとても穏やかでした。お葬式の手伝いは、道代おばさんだけにお願いしました。

 翌朝目を覚ますと、母の骨壺と道代おばさんが姿を消していました。別に驚きません。そんなに急いでいなくならなくても、とは思いましたが。それよりわたしにはやらなくてはならないことがあります。

 几帳面な性格だった母のおかげでほとんど物のない実家を整理し、平屋の家を取り壊し、更地にします。わたしはもう二度とこの土地には戻らないので、こんなただ広いだけの家は不要なのです。母の花畑も、井戸ももちろん壊します。でも井戸を壊す際にはお祓いが必要らしいので、お山の神社から宮司さんをお呼びします。

 儀式を終えて壊された井戸の中から、成人男性の遺骨がふたつ出てきたという報告を受けます。少し調べれば誰の骨なのかはすぐに分かるでしょう。どちらが始めたことなのかをわたしは知りません。でも彼女たちが彼女たちであるあいだ、本当に幸せそうだったことを覚えています。

おしまい
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み