20*酒と泪と男神と女神

エピソード文字数 4,848文字


 ミナカタヌシさんを調べるまえに眠ってた。

 翌朝。霧雨。雨は嫌い。
 剣を振り、シャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かしながらスマホを弄る。
「ミナカタヌシさんも、謎の多い神様ね。出雲国の神話に出ない、本名はわからない、御名方(御名の方)、御中主(中央に居る主)の名の神様。きっと高貴で、神秘で……」
 弄ってたら、色々と(ゴシップぽいネタが)出てきた。いつの時代もゴシップはある。
 ミナカタヌシさんは筑紫国出自で高志国、または伯耆国に移った海人族の祀る神様といわれる。海蛇信仰の神様。高志国も伯耆国も出雲国の統治下の国。島根県は因幡国と伯耆国でなり、2016年、公職選挙法により島根県と鳥取県は合区となる。あら、不思議。
 出雲国東部以上に製鉄遺跡があり、そして鳥取県米子市宗像に宗形神社がある。ミナカタヌシさんの一族は、もとは黥面文身のムナカタ(胸形)族と同族。さらに九州南部の隼人のアタ族の支族という。ムナカタ族は瀬戸内海を経て畿内(大和国高市郡)に本拠地を移したけど、のちに絶えた。ということはムナカタ族の唯一の一族。ずばり高貴。さらに製鉄族。ずばり富豪。
 宗像大社は、いまは関係のない一族が奉じてる。
 海人族は定住地がなく、または本拠地を移す。クメ水軍のアヅミ族が天ツ神に従い、行動域生活圏を拡げ、全国に族名を残したように、ムナカタ族も、北海(日本海)側に族名を残してる。
「そうか。鹿児島で南方(ミナカタ)神社の祭神だ。出自は南方(ナンポウ)か。きっと情熱の神様。神秘、高貴、富豪、情熱。私の恋心に迷いなし」
 古の戦で天ツ軍の軍将のミカヅチヲに負け、一族は姫川を遡って科野(信濃)国の洲羽の海(諏訪湖)へ逃げた。本名(諱)を憚り、ミナカタの神という贈名(諡)で、一族に祀られた。ミカヅチヲに腕を捥がれた姿は、まさに海蛇。諏方国の地主神の蛇神と合わさり、諏訪神となる。
「そうだ。死んだんだ。国ツ神は死んだら甦れない。もう、ラブコメの神様(カレ)、いや、新しい仲間になれない。やっと独神、いや、武神が現れたかんじなのに」
 私の恋心は8秒で終わった。
 本名はわからないけど、神話で風神シナヒコと同神。科野(信濃)国はシナの国。
「なるほど」
 スマホを弄る。
 高志国の神話で、高志国を治める沼河の姫とオオクニヌシさんの子神・ミホヒコという。ゆえにミナカタヌシさんは……。
 泪で読めない。
 ミナカタヌシさんの本名はわかった。国引き神話の三穂の崎にある美保神社の本来の祭神はミホヒコ(ミナカタヌシ)さんと沼河の姫。
 ……なによりもオオクニヌシさんは妻帯者。まだ、私はオオクニヌシさんで迷ってるのか。違う。ラブコメの神様が、好みの独神が、ほかにいない。
「ツ、ツクヨミ、どうした。鼻水が出てる。お、女子(オナゴ)がみっともない。は、早く拭け」やはりコレか。
「鼻水じゃ、ないッ」
 ドゴッ。
 首に巻いてたタオルでクエビコさんの頭を叩く。壁に当たる。
「あ、ごめん」舌を出す。
「ツ、ツクヨミはオレの扱いが、ど、どんどんと杜撰に、なる」
「そう?」
 クエビコさんの体に干してる服を乾かしながら、転がってる頭に応える。
「オ、オレは、も、物干竿か」

 美保神社の、いまの祭神はコトシロヌシ。オオクニヌシさんと義親子の契を交わし、国ツ軍西の軍の軍将。天ツ軍の軍門に早々に降り、のちに大和神となる。神話で、天ツ軍進軍のとき、呑気に美保ヶ崎で釣を楽しんでたという。そしてミホヒメ。タカミムスヒの娘神で、オオクニヌシさんの妃神。国譲りのあと、ミホヒメを妃とし、国ツ神を率いて永遠に天ツ神に従うように命じた。
「えーと。永遠のナンチャラというのは神代の出雲国も、はやってたの?」
 ミホヒメは、オオクニヌシさんと京都の丹波国一宮の出雲大神宮に祀られてる。オオクニヌシさんは三穂津彦大神と呼ばれ、入婿。賀茂御祖神社(下鴨神社)の摂社の出雲井於神社もあり、出雲の地名も多く、山城国や丹波国にイヅモ族は移り住んでた。神人のイヅモ族は天ツ神の神威(権威)に諛う。
 ミナカタヌシさんは高志国を治め、のちにオオクニヌシさんと義親子の契を交わし、出雲国に移った。
「……あれ?」
 実親子が、なんで義親子の契を?
 そうだ。
 ミホヒメと同じ政略結婚だ。ミナカタヌシさんは連子だ。そうだ。カムド族は義兄弟、義親子の関係だった。そうだ。ワカフツヌシさんも、そしてタカヒメも。
「ど、どうした、ツクヨミ。顔がヘンだぞ」
「クエビコさん、ヘンじゃないよォ」
 じぶんも感じるほど、ヘンな(猫なで)声で応える。
 ミナカタヌシさんは、他の神名にミナカタトミの神とあり、出雲国と高志国の国堺に住むトミ族の祀る神様という説もある。出雲国の神話にトミ族は出ないけど、別の神話でトミ族は出雲国の有力な一族とある。トミ族か。トミビコさんのトミ族と関係があるのかな。トミ族も、カムド族とともにホヒ族に滅ぼされた。
 オオクニヌシさんに従うカムド族も、比布智神社の社伝で、もとは古志国出自で神門郡古志郷が本拠地という。いまの島根県出雲市下古志町。近所に久那子神社がある。つまりカムド族とホヒ族の内戦で、カムド族は劣勢、本拠地防衛戦だった。
 出雲大社に神門(鳥居)を奉じたため、カムド族。スサノヲさんを祀る一族(出雲国東部のオウ族の支族スサ族)と合わさってカムド族となった。だから同じ高志国出自のミナカタヌシさんも受け入れた。
 そして。
 八岐大蛇を倒したスサノヲさんの剣は、神話でハバキリの剣と言われる。ハバ(蛇)を斬った剣。神代三剣の一振。倒した八岐大蛇の体内に、もう一振の神代三剣が現れる。
「クサナギの剣ね」
 浴衣を脱ぎ、乾いた下着をつけながら話す。
「ム、ムラクモの剣だ。イヅモの雲のような、も、文様のある剣。ツクヨミ、オ、オレも男神だぞ」
「わかってる」
 神話で、出雲国に降りたスサノヲさんが天ツ神に献じた剣だ。カムド族、出雲国のレガリア。ハバキリの剣が毀れるほどの鋼の剣。西日本、とくに中国地方で、スサ(須佐)、スハ(須羽/諏訪)、スカ(須賀)の名がつく地は、砂鉄の採掘と製鉄で栄えた。南海(南太平洋)側よりも北海(日本海)側のほうが良質の砂鉄が採れた。また、出雲国東部の奥出雲は、たたら製鉄で有名。スサノヲさんが、ムラクモの剣を天ツ神に献じた。つまり統治権とともに砂鉄の採取権、製鉄権を渡した。のちの近江国のオキナ族も同じ。
 そうか。出雲国の神話だ。
 オウ族は、スサノヲさんに従うスサ族、ホヒヒコに従うホヒ族が別れた。スサ族、ミナカタヌシさんの一族(トミ族)が集まってカムド族となる。古の戦が起きる。コトシロヌシさんに従うオウ族は天ツ軍の軍門に降る。カムド族は天ツ軍に中ツ国は譲るけど、出雲国は譲らない。内戦でカムド族に勝ち、すでに天ツ神に従ってたホヒ族はイヅモ族を名のり、出雲国を治める。天ツ神が勝ったかんじで神話が書かれる。
 そういえばイザナギがカガヒコを斬り殺したオハバリの剣も、ハバ。斐伊神社に献じられてる。スサノヲさんが八岐大蛇を倒した地に、ミカヅチヲの親神のオハバリの剣神が祀られてる。
 そしてそして。
 天ツ神に献じられたムラクモの剣は神剣として扱われ、神鏡とともに天孫降臨で中ツ国に降りた。宮中に奉じられてたけど、天ツ神の治める中ツ国(畿内)に疫病がはやり、三輪の山神オオモノヌシ(トミビコさん)の祟りと言われた。ということで神剣と神鏡は神宮に遷された。
「ムラクモの剣は国ツ神のものだから祟るけど、神鏡は天ツ神のもの。日神の憑代、神代だよね」
 服を着る。クエビコさんの頭を鏡台の横に置き、ポーチを探りながら話す。鏡に私とクエビコさんの頭が映る。シュール。
「ま、まあ、急くな。順で、は、話す」
 話したがりのクエビコさんの口の処のへの字が動く。口角を上げる。嬉しそう。
 神宮の初代斎王の倭姫命が、熊襲征討(征西)を終え、蝦夷征討(東征)を始める甥の倭建命にムラクモの剣を授ける。ムラクモの剣が神剣ならば、つまり立皇太子の儀となる。倭建命は皇太子となる。
 東征を終え、ヲハリ族の娘を娶り……。
「オキナ族に殺された」
 ファンデを塗りながら話す。
「そ、そうだ」
 八岐大蛇は伊吹山の伊吹大神となり、倭建命を返り討ったという。
「カムド族とオキナ族の関係って……」
 倭建命は12代景行天皇の実子でない。嗣子の13代成務天皇に継がせるために景行天皇が殺したという説もある。しかし成務天皇に嗣子はなく、倭建命の子が14代仲哀天皇となる。神功皇后の夫だ。
 別の神話で、八岐大蛇は伊吹山の伊吹大神となり、カムド族の復讐をオキナ族が果たしたという。倭建命は佩刀のムラクモの剣の持主に討たれた。
 うーん。神話で、応神天皇は筑紫国で産まれた。そして越前国一宮の気比神宮と関係がある。5世孫の継体天皇は越前国で育ち、越前国を治めてた。オキナ族は神話と大きく関わってる。越前国は、もとは高志国。出雲国とともに天ツ神に抗った。カムド族とオキナ族の関係はわからないけど、深い関係がある。
 丹波国大江山に棲んでた酒呑童子は、伊吹大神の子神で、伊吹山に棲んでたという説がある。代々で酒好き。笑える。
 左腕にブレスレットと品物比礼を巻きながら笑う。
「わ、笑える」
 さて、百足退治で天ツ神(藤原秀郷)に従ったけど、酒呑童子がオキナ族ならば、すぐに天ツ神(源頼光)と逆らった。ヲハリ族、比良山のヒラ族、三上山(一説に比良山)の製鉄族の征討は天ツ神とともに戦ったけれど、すぐにうらぎった。
 天ツ神とともに蕃神(トナリノクニノカミ)が、鬼神や蛇神などの、まつらわぬ国ツ神の退治を行った。
「そ、そんな一族だ、彼ノ国(カノクニ)の民は。お、同じ根の草も、植えかえ、ち、違う地で育てば、種は変わる。じ、地震や火山のある地で育てば、か、変わる。変わらなかった種は、か、枯れたからな。もう、ともに枯れることは、ない」
 残ったマダケ。みんな枯れれば、すべてモウソウチクに替わる。
 見つかったクマノザクラ。世界にひとつだけの桜。
「か、格下の国で、大王(オオキミ)が天皇(スメロキ)を、な、名のったと騒ぐ。独立門で、じぶんたちは変わったと、き、記念写真を撮る。事大主義は、う、現代(ウツヨ)へ続けられる」
 ちょっと、なにを言ってるかわからない。
 ごめん。言ってることはわからないけど、垢バンは避けないと。

 クサナギの剣と名を変えた理由は、倭建命が東征道中、相模国、または駿河国(当時は両国ともに東国)で東夷に騙されて囲まれ、野火を放たれたとき、剣で草を薙ぎ、難を逃れたという。ゆえに焼津の地名になった。
「く、草は、人、民だ。青人草」
 神話で、草は人、草の祖神はカヤヒメという。別名はノヅチの神。

 一説で、ナギは、ウナギ、アナゴなどの長魚(ナガウオ)、海蛇のナガ。クサナギの剣は、蛇の剣、八岐大蛇の剣という。神話で、クシナダヒメも暴れ川(八岐大蛇)で水害を被った稲田の神格化でなく、ナダもナガであり、蛇神(八岐大蛇)の生贄となった巫の神格化。ムラクモの剣と別に、クサナギの剣があり、神話で1振にまとめられたという。


 朝鮮半島、中国大陸は安定陸塊で地震は少ない。地殻変動(地震)がないわけでなく、少しずつだけど地殻は動いてる。ゆえに時間をおいて大きな地震となる。例えば2008年の四川大地震のまえは、1976年の松潘・平武地震だった。
 また、火山も少ないけど、ないわけでない。中華人民共和国(中国)と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の国境にある白頭山。そして済州島(漢拏山)、鬱陵島。
 1980年以後、白頭山の火山性地震は増え、鬱陵島にマグマだまりが認められる。
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