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文字数 2,337文字
今日に限ってなんてきれいな青空なんだろう。
鳥の声でも聞こえてきそうだ。
「おめでと~!!」
「超きれい、麗華お幸せに~」
きれい、ねぇ…。
花嫁姿なんて大体そうだよな。
「うふふ、ありがと」
まるで彼女を表現したようなチャペルだ。
童話の中のお姫様になりたい、そう口にしていた彼女にとってまさにここは絶好の場所。
レンガ造りの建物が並ぶ潮風が届きそうな高台の成り上がるためのステージ。
風になびくおくれ毛を見るたびにその先を掴んで引きちぎりたくなる。
何が“お姫様”だよ。保険証見ろ。何年生まれだ。今の自分の年齢ぐらい把握しろ。
「おい、ちょ、思いっきりなげるんじゃねぇ。シャワーが弾丸になってる、いってぇ!」
「和磨、ずりぃぞ!そんなきれいな奥さん捕まえやがって」
わらわらとこの場に招待された観客どもが騒ぐ。喧騒に紛れ込んでしまえば、存在をけせるのか。
どこがだよ。
あいつの中身知ったらどうせあんたたちじゃ手に負えないよ。
きゃっ、という耳障りな声が聞こえた。
同時に周りの人間がそっと支えるように手を伸ばす動きを見せる。
どの手よりも一番早く女にたどり着いたのはもちろん隣に腕を組んで並ぶ和磨だ。
「おい、大丈夫か気をつけろよ、」
お前ひとりの身体じゃないんだから。
そう言いながら腰に回した腕と反対の腕で女の腹を撫でるように被せた。
「ごめん、踵が少しみぞにはまったみたい」
いくら人生の華の日だからって身重のくせにヒールのある靴はいてんじゃねーよ。
そんな責任ももてないような行動するならいますぐながせ。あんたと私の遺伝子ぜんぶ取り換えて私の子宮の中で大事に育てるから。それで和磨と三人で幸せになって笑って人生過ごしてそのまま静かに死ぬまで生きるから。
皮肉にも私の両手はふさがっている。少しでも目の前に降り注ぐカラフルな米粒に願いよりも恨みよりももっと気色の悪いこの感情を込められたら。
ぐっ、とこもった力に手の中の紙が軋む。
そうしている間にも石畳をたたく革靴と細い踵の音は近づいてくる。
自分の心臓がだんだんと落ち着きを失うのがわかる。
きもち、わるい。
平然と私の前でふたりが腕を組んでるのがきもちわるい。わたしと共通の友人を招いて同じようにわたしに祝わせようとしているのがきもちわるい。わたしを招待する神経がきもちわるい。降り注ぐライスシャワーなんて全然神秘的でもなくてきもちわるい。おめでとうと祝福をうけてほほえみ返している二人の笑顔がきもちわるい。いつのまにこんなことになったのか意味が分からなくてきもちわるい。なんでこんなところにいなきゃいけないのか理解できなくてきもちわるい。予定なんて消し去った目の前の女が投げたブーケが手元にあるのがきもちわるい。皮肉でしかないきもちわるい。和磨の横にいるのがわたしじゃなくて麗華なのがきもちわるい。ふたりの血がまざった生命体が存在していることがきもちわるい。どうして、今和磨がわたしのことを好きじゃないのか。きもち、わるい。きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。
溢れ出そうなどす黒い空気をかみ殺す。だめだどうにも耐えられそうにない。花の匂いに酔いそうだ。
「弥里、ブーケ受け取ってくれてありがとう。次はあなたの番かしらね」
ふふ、と音にならない笑い方をしていつも通りの美しい顔を向けてくる。
オープンカーへと続く道の途中。当然私の横も通る。
話しかけてこないでいいのに。
でも仲のいい私たちがここで話さないのも周りからしたら違和感を覚えるのだろう。
今更世間体を気にして何になるんだ。
同じぐらいの身長の私たち。髪型もそっくりだった。高校時代はずっと一緒にいた。
童顔のわたしとちがって麗華は名前のごとく華やかな顔立ち。いつもきれいで憧れていた。彼女みたいになりたいと思っていた。
でも、今ほど彼女になりたいとおもったことは二人の思い出の中にはない。
「弥里がとってくれて嬉しいわ。ナイスコントロールね、」
そんな目で和磨を見ないで。
「あ、ああ、そうだな。みさと」
和磨のセリフを遮った、今その声を聴きたくない。
「二人ともおめでとう」
なんてほんとは口が裂けても言いたくなかった。
「麗華すごいきれい」
そんな白いドレスふさわしくないよ。
「和磨、麗華のこと大切にしてあげてね」
私みたいに捨てたら腹の底から笑い転げてやる。
「お幸せに」
地獄に落ちろ。
笑えたはずだ。ちゃんと。
そう告げたわたしをみて、何か言いたそうに麗華の口が空を噛む。
なんで、あなたがそんな目をするの?
「ほら、はやく行きなよ。みんな待ってるよ」
そういって先を促す。これ以上胸のどろどろをしまい込むのは苦しい。
麗華が諦めたように90度体の向きを変え前に進もうとする。
その腕を離して、和磨がわたしに近づきブーケを掴む両手を包み込んできた。
呼吸が止まった。
名残惜しそうに熱のこもった目でみつめている。
抵抗なんてできなかった。
「弥里そのドレス似合ってる。きれいだよ」
そういってそのまま抱き寄せるように引き寄せた。
温もりは近くて、遠い。
ごめん。しあわせになって。
どうしてこうなって、しまったのだろう。
そう告げた後、すぐに麗華のもとに戻り道を歩いていく。
時を戻す方法はどこにあるの?
鳥の声でも聞こえてきそうだ。
「おめでと~!!」
「超きれい、麗華お幸せに~」
きれい、ねぇ…。
花嫁姿なんて大体そうだよな。
「うふふ、ありがと」
まるで彼女を表現したようなチャペルだ。
童話の中のお姫様になりたい、そう口にしていた彼女にとってまさにここは絶好の場所。
レンガ造りの建物が並ぶ潮風が届きそうな高台の成り上がるためのステージ。
風になびくおくれ毛を見るたびにその先を掴んで引きちぎりたくなる。
何が“お姫様”だよ。保険証見ろ。何年生まれだ。今の自分の年齢ぐらい把握しろ。
「おい、ちょ、思いっきりなげるんじゃねぇ。シャワーが弾丸になってる、いってぇ!」
「和磨、ずりぃぞ!そんなきれいな奥さん捕まえやがって」
わらわらとこの場に招待された観客どもが騒ぐ。喧騒に紛れ込んでしまえば、存在をけせるのか。
どこがだよ。
あいつの中身知ったらどうせあんたたちじゃ手に負えないよ。
きゃっ、という耳障りな声が聞こえた。
同時に周りの人間がそっと支えるように手を伸ばす動きを見せる。
どの手よりも一番早く女にたどり着いたのはもちろん隣に腕を組んで並ぶ和磨だ。
「おい、大丈夫か気をつけろよ、」
お前ひとりの身体じゃないんだから。
そう言いながら腰に回した腕と反対の腕で女の腹を撫でるように被せた。
「ごめん、踵が少しみぞにはまったみたい」
いくら人生の華の日だからって身重のくせにヒールのある靴はいてんじゃねーよ。
そんな責任ももてないような行動するならいますぐながせ。あんたと私の遺伝子ぜんぶ取り換えて私の子宮の中で大事に育てるから。それで和磨と三人で幸せになって笑って人生過ごしてそのまま静かに死ぬまで生きるから。
皮肉にも私の両手はふさがっている。少しでも目の前に降り注ぐカラフルな米粒に願いよりも恨みよりももっと気色の悪いこの感情を込められたら。
ぐっ、とこもった力に手の中の紙が軋む。
そうしている間にも石畳をたたく革靴と細い踵の音は近づいてくる。
自分の心臓がだんだんと落ち着きを失うのがわかる。
きもち、わるい。
平然と私の前でふたりが腕を組んでるのがきもちわるい。わたしと共通の友人を招いて同じようにわたしに祝わせようとしているのがきもちわるい。わたしを招待する神経がきもちわるい。降り注ぐライスシャワーなんて全然神秘的でもなくてきもちわるい。おめでとうと祝福をうけてほほえみ返している二人の笑顔がきもちわるい。いつのまにこんなことになったのか意味が分からなくてきもちわるい。なんでこんなところにいなきゃいけないのか理解できなくてきもちわるい。予定なんて消し去った目の前の女が投げたブーケが手元にあるのがきもちわるい。皮肉でしかないきもちわるい。和磨の横にいるのがわたしじゃなくて麗華なのがきもちわるい。ふたりの血がまざった生命体が存在していることがきもちわるい。どうして、今和磨がわたしのことを好きじゃないのか。きもち、わるい。きもちわるい。きもちわるい。きもちわるい。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。キモチワルイ。
溢れ出そうなどす黒い空気をかみ殺す。だめだどうにも耐えられそうにない。花の匂いに酔いそうだ。
「弥里、ブーケ受け取ってくれてありがとう。次はあなたの番かしらね」
ふふ、と音にならない笑い方をしていつも通りの美しい顔を向けてくる。
オープンカーへと続く道の途中。当然私の横も通る。
話しかけてこないでいいのに。
でも仲のいい私たちがここで話さないのも周りからしたら違和感を覚えるのだろう。
今更世間体を気にして何になるんだ。
同じぐらいの身長の私たち。髪型もそっくりだった。高校時代はずっと一緒にいた。
童顔のわたしとちがって麗華は名前のごとく華やかな顔立ち。いつもきれいで憧れていた。彼女みたいになりたいと思っていた。
でも、今ほど彼女になりたいとおもったことは二人の思い出の中にはない。
「弥里がとってくれて嬉しいわ。ナイスコントロールね、」
そんな目で和磨を見ないで。
「あ、ああ、そうだな。みさと」
和磨のセリフを遮った、今その声を聴きたくない。
「二人ともおめでとう」
なんてほんとは口が裂けても言いたくなかった。
「麗華すごいきれい」
そんな白いドレスふさわしくないよ。
「和磨、麗華のこと大切にしてあげてね」
私みたいに捨てたら腹の底から笑い転げてやる。
「お幸せに」
地獄に落ちろ。
笑えたはずだ。ちゃんと。
そう告げたわたしをみて、何か言いたそうに麗華の口が空を噛む。
なんで、あなたがそんな目をするの?
「ほら、はやく行きなよ。みんな待ってるよ」
そういって先を促す。これ以上胸のどろどろをしまい込むのは苦しい。
麗華が諦めたように90度体の向きを変え前に進もうとする。
その腕を離して、和磨がわたしに近づきブーケを掴む両手を包み込んできた。
呼吸が止まった。
名残惜しそうに熱のこもった目でみつめている。
抵抗なんてできなかった。
「弥里そのドレス似合ってる。きれいだよ」
そういってそのまま抱き寄せるように引き寄せた。
温もりは近くて、遠い。
ごめん。しあわせになって。
どうしてこうなって、しまったのだろう。
そう告げた後、すぐに麗華のもとに戻り道を歩いていく。
時を戻す方法はどこにあるの?