第2話【ウナギ発電】

文字数 970文字

限りあるエネルギー問題を解決するため、研究者達は次世代エネルギーとして新しい生物を造り出した。名前を"デンリョクウナギ"といった。
名前の通り、デンキウナギを遺伝子改良し、発電する電力を通常のデンキウナギの何倍にも引き上げられるように造りかえた新種だった。
その電力は、一般家庭のコンセント数口ぶんに匹敵し、専用の防水コンセントを水槽に沈めておくだけで、家庭で使用する電力の3分の1近くをまかなえるとまで言われた。
家に専用の水槽と養殖されたデンリョクウナギを準備するだけで電気代が大幅に安くなる。停電時も関係なく使用でき、万が一には非常食にもなりうる。人間達は、こぞってデンリョクウナギを購入し、飼育、電力供給を行った。
しかし、待望の次世代エネルギーであったはずのウナギ電力に疑問の声を投げかけたのは、人間達自身だった。
高圧電流を発するウナギを家庭で飼育することを危険視する声も少なくはなかったのだが、それ以上に否定的な声が上がった原因は、いかにも人間らしいものであった。
デンリョクウナギが電気を発するのは、一般的なデンキウナギ同様に身に危険が迫った時だった。つまり、電気を使いたい時には、常にデンリョクウナギにストレスを与え、身の危険を感じさせ続ける必要があった。それを可能にしたのが、全自動追い回し機能が付いた専用の水槽だったのだが…。
電気の使用中、必死に水槽の中を逃げ回るウナギの姿は、見ていて気持ちのいいものではなかった。
共に暮らす生き物に情がうつってしまうのが人間だ。自分の家のデンリョクウナギに名前をつける子ども達も少なくなかった。もちろん、毎日追いたてられるウナギの姿に、最初に嫌悪感を抱いたのが子ども達だったことはいうまでもない。

ーーーウナギ発電は子ども達の道徳心を育むのに悪影響を与える

そう問題になってからは早かった。
ウナギ発電は衰退の一途を辿り、いつしか世界は人道的な面からも"生物を利用した電力発電"を禁止したのだった。
これまで感情を表さない自然エネルギーを利用して電気を作り、使い続けてきた人間達が忘れていたことを、デンリョクウナギは教えてくれた。
人間達が便利な暮らしをする陰で、声にならない悲鳴をあげている物言わぬ者の存在があることを。そして、人間達にはまだ、"それ"に気付ける心が残っているのだということを。


おしまい
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