第1話【友達の証】

文字数 977文字

「ねぇレン、どうして先生に呼ばれたの?」
職員室から出てきたレンに、サクラが訊いた。
「言わなくたってわかるだろ」
不機嫌そうにレンは返した。
「ケント君のこと?」
「せーかい」
予想が当たって嬉しそうなサクラをよそに、レンは廊下に置いていたランドセルを乱暴に背負って歩き出した。
「ケントに意地悪するなって。別に意地悪したわけじゃないのにさ」
ケントは、最近レンとサクラのクラスに転入してきた外国の少年だった。
「アイツ、言葉わかんないからってすぐ翻訳機出すだろう?」
レンはポケットから出した指をピストルのようにして耳に当てた。
「だから言ってやったんだよ。俺達だって外国の言葉勉強してるんだから、お前も翻訳機ばっか使うなって」
「そういうとこ、レンらしいよね」
レンとサクラ。二人は家も近所で幼稚園からの幼馴染みだった。気も合う二人は、5年生になる今でも毎日一緒に登下校していた。
「ケント君は先月にコッチに来たばかりなんだから、言葉が上手く話せなくても無理ないよ。文化だって違うし」
「そりゃそーだけどさ」
「まだ緊張しているんだよ。ケント君も中身はいい奴だよ」
そう言うと、サクラはゆっくり帽子を脱いだ。白銀色に輝く髪の間から生えた2本のアンテナが顔を覗かせた。
「本当はみんなと話したいんだけど、うまく言葉が出ないんだ。ボク達は、"コレ"があるからわかるけど」
それは、サクラ達"ユグナ星人"ならば誰もが持っている、テレパシー器官だった。
「だからアイツはユグナ(星人)のヤツらとばっかり一緒だろ?少しは自分で努力しろっての!しかも登下校は車なんだってよ。金持ちかよ!」
「はは、そうだね。歩いた方が楽しいのにね」
こんな風に、同じ感覚を持つ友達が隣にいることが、サクラは嬉しかった。テレパシー器官なんか使わなくても、レンの考えていることはなんとなくわかったし、レンもきっと同じ気持ちでいてくれていると感じていた。
「いや、むしろお前は毎日俺と一緒に帰らなくていいんだよ。もっと日が沈んでからじゃないと、地球の日差ししんどいだろ?」
「平気だよ」
雪のように白いサクラの顔の奥で、翡翠色の瞳が輝いていた。
「ボクは、レンと一緒に歩いて帰りたいんだ」
そう言って、サクラはその日も日傘を広げ、二人は肩を並べて昇降口を出た。
地球とユグナ星の交流が始まって、間もなく100年が経とうとしていた。

おしまい
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