第3話 失恋しました(泣)

文字数 1,211文字

 環奈は遅刻ギリギリに学校に着いた。朝が遅いので、仕方がない。

 感染症対策の一環としてクラスメイト達は、みんなマスクをしていた。お陰でクラスメイトの顔があまり認識できない。イケメンや美人もよくわからない状況だった。

 おかげで容姿イジメのようなものは発生しにくい。こんなクラスの風景を見ていると、漫画やゲームの世界がキラキラして見えてしまう。漫画やゲームのは興味を失ってはいたが、現実は色褪せてしまうのは事実だった。

「ホームルーム始まるぞ」

 そこへ担任の栗原礼央が入ってきた。24歳の英語教師だった。

「先生!」

 女子生徒達の黄色い声が上がる。礼央はジャニーズ風のイケメンで、人気のある先生だった。

 かくいう環奈も好きだった。恋愛的な好きというか、大人に憧れている感じではあるが。環奈の好きな漫画の「悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されます」のヒーローにも少し似ている。

 ただ、礼央は少し変わり者だった。ワクチンやマスクを否定している陰謀論好きで、保護者からの印象は悪い。今日もマスクをしていなかった。

 礼央はイケメンなので、その点については誰も文句は出ない。やっぱり顔がいいものは得しやすいと思う環奈だった。

 ぼーっと礼央の顔を見ていたら、ホームルームはあっという間過ぎ、終盤に差し掛かった。

「実は、結婚する事になったんだ」

 は?

 ぼーっとしていた環奈は、冷や水を浴びせられた気分だった。

 教室内はどよめきが起きていた。女生徒の中には、泣いているものもいた。

「嫁とは反ワクチンの集会で知り合ったんだ。お前ら、ワクチンだけは打つなよ! 副反応でバイク事故で亡くなった若者もいるんだ。不安なヤツはよく調べろよ。死んでからでは遅いぞ? ワクチン推奨派の医師だって4回目からはやめてた人もいるんだぜ。全く国は何回薬害事件を起こせば気が済むんだよ。下らない洗脳医療ドラマ流す暇があったら、ワクチン被害者や遺族の声も平等に放送しろよ。そもそも精神薬の薬害もものすごく……」

 礼央の言葉など耳に入ってこなかった。環奈はすっかり砂と化していた。ショックすぎて言葉もない。

 勝手に憧れていただけで、付き合いたいとか思ってたわけでもないけど!

 言い訳みたいな事を考えるが、ショックである事は変わりなかった。

 佐藤環奈(17)の初恋は、こうして消えてしまった。ずっと漫画やゲームヲタクで、生身の人間には見向きもしなかった。はじめて生身の男性を良いと思ったので余計にショックだった。要するに環奈には免疫というものがなかったのだろう。

「そんな……」

 口では一応「先生、おめでとう」と言ってはみたが、ショックである事は変わりなかった。

 その気持ちは半日続き、午後の体育の時間に貧血を起こした。

 やっぱり漫画やゲームがいいじゃん。いくら推しても失恋する事はない。

 こんなショックな事は、二度と味わいたくない。

 そんな事まで考えるほどだった。
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登場人物紹介

佐藤環奈(17)

クリスチャンJK。漫画やゲームが大好きだった。恋愛に免疫が無い。

サトゥ・カンナ

少女漫画「悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されます」の中での環奈の姿。ヒロインの公爵令嬢の身代わりをする事に。

レン

少女漫画「悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されます」の中のイケメン執事

メリア

少女漫画「悪役令嬢は、カフェ店長になって隣国の騎士に溺愛されます」の正規ヒロイン。前世の記憶があるらしい。

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