第1話 漆黒の渦

文字数 2,678文字


宇宙とは何か

宇宙には無数の宇宙が存在し、
そこに数え切れない程の銀河と星々と生命が

生まれては消えている


宇宙とは何か

宇宙とは ”無” であり ”有” である

無が重なり合い、さざ波をおこし 有を生み出す

波間の対流のように、一部は渦になり、分離し 結合し 消えてゆく


その渦が 銀河であり


結合が スター・ゲートである



我々の宇宙も、別の無を内在し、 時には関係し 顕在化し 消えてゆく

古代人が書き残した神話の

神々のように

そこに在ったが、 今は無い



宇宙とは ”無” であり ”有” である








スター・ゲート

宇宙が割れ、別の宇宙がそこには存在していた。

 サジタリウスで起きた出来事は、宇宙という概念に我々がまだ知り得ない未知の活動がある事を再確認した出来事であり、
Sir アルフレッド・グリフィンは、その一端を自らの分身であるArdy(人型の分身体)を通し、その目に刻んだ。

「 私よ… 許してくれ… 」



「アルフレッド」
 美しく優麗で優しい雰囲気を漂わせる女性が、夕刻の柔らかい光を煌煌(キラキラ)とその髪に輝かせながら、白いベットの上で休んでいる、老齢のアルフレッドのそばに歩み寄てくる。

「どうしました、マスター・ゼウス」

「サジタリウス No.4は残念でした」
「例え外宇宙に出たとして、次にこの銀河に戻って来られるのは、数億年先です」

「あぁ…」
「だからこそ、 探査は続けてくれ」
「残ったクルーで拠点を再構築し、探査を再開してほしい」

「わかりました、アルフレッド」
 柔らかく目を閉じ、アルフレッドに応えるマスター・ゼウス。

「それと、シリウスからレポートが届いていますが、お読みになりますか」

「ありがとう、前に出してくれるか」

アルフレッドの前に半透明のスクリーンが浮かび上がり、シリウスのレポートが表示された。

□ Report No.52 : Sirius explorations. / Date 22.May.5870
  Signature : Alfredo Griffin

 探査機SI-N3(シリウスNo.3)はシリウス星系の近くに拠点を構築し、そこからその惑星系を探査し2年が経過。
 シリウスは二つの惑星系が存在していた、並列惑星系であったことは以前のレポートでも報告をしたが、その二つの惑星系にある、シリウスA、シリウスBの間に、小さなブラックホールらしき存在が確認されたので報告をする。
 詳細は各レポートを参照




 ∫




ゴォォ…

無音の黒い渦がそこにあった。
漆黒の渦は光をも飲み込み、存在する物全てを否定しているかの様に、静かに佇んでいた。


マックス(マクシミリアン)、その後あのブラックホールの事は何か分かったか」

 鈍い光を、その鉛色に光る金属で出来た体に反射させながら、二体のArdy(人型の分身体)がフローティング・スクリーンの前で会話をしている。

「あぁアル(アルフレッド)、謎だらけだがな」
「質量はシリウスとほぼ同じだが、引力はそれほどでも無い」
「だが、引き込まれたら、アル、お前でも脱出できないぜ」

「あぁ、厄介なリトルデビルだな」
 肩を竦ませ、少しおどけて見せるアルフレッド

「そもそも何であんな所にブラックホールが出来ているんだ」

「多分、元々ここには三つの惑星系が存在していたんだ」
 フローティング・スクリーンに整然と並ぶ、三つの惑星系が映し出された。

「その証拠にブラックホールがある惑星系の一番外側には、取り残された惑星が残っている」
「何かしらの切っ掛けで中心の恒星が崩壊し、その付近にあった惑星達がその崩壊と共に飲み込まれ、ブラックホールに変化したんだろうな」

 アルフレッドがマクシミリアンの方へ振り向き、言葉を続ける。
「知ってるかマックス、遥か昔の古代エジプト文明では、シリウスは神格化され、豊穣の女神ソプデトとして崇められていたんだ」
「シリウスは、地球の営みと深く関わり、その動きは地球と呼応しているかのように連動し、洪水の時期を予測する星として重要視されていた」
「そして、その女神ソプデトをヒエログリフでは三角形で表しているんだ」
 アルフレッドは両方の親指と人差し指で、三角形をつくりマクシミリアンに見せる。

「シリウスの三惑星系と、女神ソプデトの三角形か」
「偶然だとしても古代エジプト人達にはシリウスは三つに見えていたのかもな」
 マクシミリアンは少し頷き、その三角形を見つめながら応える。

「それがいつの間にか、惑星系の一つは消滅し黒い渦になり、もう一つは、それに吸収され小さく萎んでしまい、今は蒼白く光るシリウスAだけが残っている」
「この黒い渦はその変化の鍵を握っている」

 アルフレッドのグレアリング・アイが鮮やかな青色に輝き、
「シリウス星系は、地球と同じオリオン・アームに存在する星系で、宙域組成が太陽系と似ているが、元素の数は約三倍だ」

「地球と親和性のある物質が多く存在し、ジェフリー博士が求めていた重元素が存在しているかもしれない」

「そうだな。太古から地球に何かしらの影響を与え、古くから人々を魅了してきた神話の星としても、興味深い星々だ」

「シリウスは子供の頃から眺めていたよ」
 マクシミリアンは蒼白く輝くシリウスを見つめながら話を続ける。

「夜空に輝く星々の中で、ひときわ輝いていた…」
「何かメッセージを発しているかのような、とても心惹かれる星だったな」



 マクシミリアン・シュミット、マックスと呼ばれている彼は中央ヨーロッパの出身で、少年時代にヴァイオリニストだった母親の影響で音楽に興味を持ち、ヴァイオリンが奏でる世界と、宇宙に輝く星々、特に蒼白く輝くシリウスに魅了されていた少年だった。
 ただ、体格はその繊細さとは似合わない体の持ち主で、身長は2mを超え、ノルディックスキーを得意としていたが、山岳エリアで練習中に転倒し、腕を負傷した影響でヴァイオリンの演奏にも支障が出てしまい、マクシミリアンはヴァイオリニストを諦める事となった。
 進学した大学では、興味のあった宇宙物理学の世界に進む事を決め、その大学の研究室でアルフレッドと出会う事となる。

ジェフリー博士の研究室で…


「シリウスか…」

 マクシミリアンは少し間を置くと、アルフレッドの方に振り向き、
「そろそろ始めるか、アル」

「あぁ、調査し見つけようぜ、俺たちが探している重元素を」
「信頼できる仲間達がいれば、見つけられるさ」
「マスター・ヘルメス、ヴィッカリー博士、トーマス、エレン、サンダース、イェーガー、そしてマクシミリアン、お前だ」

同じオリオン・アームに存在する地球とシリウス。
アルフレッド達が探し求める重元素を求めて、その謎を解き明かす探査が始まろうとしていた。
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登場人物紹介

Ardy(Artificial other body / Ardy)

アーティフィシャル・アーザー・ボディ、通称アーディ

鉛色に光る金属の身体をした人型の分身体


アルフレッド・グリフィン(Alfredo Griffin)

マクシミリアン・シュミット(Maximilian Schmitt)

トーマス・ウッドワード(Thomas Woodward)

バーナード・サンダース(Bernard Sanders)

エレン・ストライト(Ellen Streit)

バーナード・イェーガー(Bernard Jaeger)

アストン・ヴィッカリー(Ashton Vickery)

ヘルメス(Hermes)※アンドロイド

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