木戸紗理奈の場合
文字数 1,627文字
私はあの日、彼女の思いも寄らない姿を目にした。
別れを告げる相手に対し、子供のように喚き縋る彼女の姿。
嫌だ、と感情剥き出しに訴えるものも、相手の女性は視線を逸らし彼女の身体を突き離す。
さよなら、と泣き崩れる彼女の姿には目もくれず相手の女性は去ってしまった。
偶然とはいえ他人の別れ話に遭遇した私は突き放された彼女を無視出来なかった。
あの時、泣き崩れる彼女が溢した言葉に私はひどく共感した。
私に交際経験は無い。ただ、好きだった人と離れ孤独になるのがどういうことなのかは理解できた。
理想像であった木戸紗理奈が孤独になることを恐れ、泣いて拒む。
私にとって其れが途轍もなく衝撃的であり、彼女が自身と変わりのない存在だと実感できたのである。