第9話 幼なじみというだけで

文字数 2,259文字

何カッコつけてこんなマント着てるわけ?

そっと逃げようとしていたリアムを捕まえてブレンダお姉ちゃんが言った。

べつにカッコつけてるわけじゃ……

リアムがそう言っていると、例のマントにミランダお姉ちゃんが手をかける。

あらあら、

すごくいいマントね

マントの生地に触れながら、ニコニコしてミランダお姉ちゃんは言った。

バレンタインだからって、

そこまでしなくていいんじゃない?

たたみかけるように二人のお姉ちゃんたちが言う。
(リアムが二人に捕まった……)
……

リアムは生地に触れているミランダお姉ちゃんを素早くやめさせようとする。でも、ミランダお姉ちゃんの方がうわてだった。

あら、この服……。

剣で切りつけられてるわね。

手際よくリアムのマントを脱がせ、下のボロボロになっていた旅人の服を見ていた。

ウチのお客さんの仕業?

そう言うミランダお姉ちゃんが、少し怖かった。
ちが……
違うの?
……
リアムは黙り込んだ。

でかした。

しっかりと村に貢献しているわね。

ブレンダお姉ちゃんの言葉に、リアムが覚めた目を向けた。

べつに貢献してるつもりはない。

しぶしぶとそう言う。

でも、結果的に村は助かっているわ。

おだやかにミランダお姉ちゃんは言った。

ただ……、

さすがにこれはやりすぎね。

……

ミランダお姉ちゃんは、リアムのお腹の部分にある、服の大きな切れ込みに触れて言った。

そろそろご自分のお家に帰ってもらってもいい頃合いかもしれないわね。

ミランダお姉ちゃんがブレンダお姉ちゃんを見て言った。

ブレンダお姉ちゃんはうなずく。

リアムの部屋は毎日掃除しているから、

いつでも戻ってこれるわよ。

そうね。

ブレンダお姉ちゃんの言葉に、ミランダお姉ちゃんはにっこりとうなずいた。

では、今夜、お泊りいただいたら

明日は魔王の城に挑戦していただきましょう。

ミランダお姉ちゃんはそう言って、首に下げていた不思議に光る鍵を出し、みんなに見せる。

お姉ちゃん、その鍵は?

そう訊くと、ミランダお姉ちゃんは怪しく笑う。

一回使うと消える

魔法の鍵よ。

1回だけなの?
一回だけ、

魔王の城の扉を

開けることができる鍵。

そう言うミランダお姉ちゃんは、聖女のようだった。

ただ、綺麗なんだけど……

とても高価な物だけど、

きっとお客様は買ってくださるわ。

そっか……

なんか怖かった。


今日は洞窟で我慢しなさい。

食事は運んであげるから。

ブレンダお姉ちゃんがリアムにそう言う声で、凍ったと思えた空気が普通になった。
(そう思ってたのは私だけ?)
ブレンダお姉ちゃんはいつも通りだった。

俺、

ずっと洞窟でも構わないけど……

冒険者さんたちに同情したのか、困ったような顔をしたリアムが言う。

やせ我慢なんてしなくていいわよ。

ニコニコとブレンダお姉ちゃんは言った。

べつに

やせ我慢なんて……

美味しい料理も食べたいでしょ?
……
(やっぱりお腹、空いてたんだ……)
明日になれば、

全てがうまくいってるわよ。

笑顔でミランダお姉ちゃんが言う。

お姉ちゃんが言った通りにならなかったことなどない。


明日になれば、きっと全てがうまくいっているのだろう。

……

たまに、人間の方が、魔物よりも怖いのではないかと思うこともある。

でも、わたしには、とっても優しくて頼りになるお姉ちゃんたちだ。

やっぱり

お姉ちゃんたちはすごいな。

そう言って、お姉ちゃんたちの腕に両手でしがみつく。
あらあら。

そうよ。

あなたのお姉ちゃんだもの。

ブレンダお姉ちゃんが言うと
……
ミランダお姉ちゃんが笑顔でうなずいた。











なあ……
お姉ちゃんたちは先を歩いていて、洞窟に行く前のリアムが、後ろにいたわたしに声をかけてきた。
なに?

バレンタインにチョコレートって、何か特別な意味があるのか?

お姉ちゃんたちに知られないように、そっと聞いてきた。

リアムは知らなくてもいいんじゃないかな?

え?

でも、これはとりあえずあげるけどね。

そう言って、バスケットをリアムに渡した。

ああ、

ありがとう……

よくわかっていない顔で、リアムはバスケットを受け取る。
食べ終わったら

バスケットは返してね。

わかった。

幼なじみというだけで、べつに好きなわけではないけれど、嫌ってもいない。

ただ、私が憧れているのは、愛し合っているのに祝福されない相手との恋だから。


でも、チョコレートが入っているチョコマフィンのなれの果ての魔力を回復する薬のようなお菓子は、リアムにあげる。

ねえねえ
ん?
さっき

ミランダお姉ちゃんが持ってたカギ

リアムももらったら?

くれるわけないだろ。
そんなことないと思うけどな。
俺は俺の力で魔王の城に入って

魔王に会うんだ。

そっか……
変なところで頑固だし。
(でも、カギを使うつもりがないってわかって、ホッとした)
実はほんのちょっとだけ、リアムがあのカギを使ったらどうしようって思った。
それに
ん?
……
……
なんでもない……
そう言って、速足で歩く。
途中まで言いかけたんだから

最後まで言いなさいよ。

追いかけて、そう聞いた。
言わない。
なんでよ!
ホントに頑固だな、リアムは。
俺が強くなるまで……
……
言わない。
……そっか。
うん。
リアム、頑固だから……。
じゃあ、モリーを倒したら教えてね。
わかった。
リアムは笑顔を浮かべてそう言って、今日は洞窟へ行った。
(何を言うつもりなんだろう)
幼なじみというだけで、別に好きというわけでもないけれど、キライと言うわけでもないリアムは、そんな疑問をわたしに残した。
(告白だったらどうしよう)
(悪い気はしないけど……)
(でもリアムのことだから、もしかしたら、全然ちがうことかもしれない)
(そうなったら、そうなったで……)
その時に考えよう。
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登場人物紹介

シェリル(14)

人間と魔族の間に生まれ、魔法が使える。

宿屋の三姉妹の末っ子

リアム(16)

とある国の国王の孫だが修行の旅に出されてミスティ村に長期滞在している。

ミランダ(19)

シェリルの姉

宿屋の三姉妹の頼れる長女

ブレンダ(19)

シェリルの姉でミランダの双子の妹

宿屋の三姉妹の仕事ができる次女

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