第4話 リアム
文字数 3,380文字
空を見上げると、ミランダお姉ちゃんの鳥が飛んでいた。
お姉ちゃんは野性の鳥を飼いならしていた。
青くて割と大きめの鳥。受付の前に止まり木があり、夜はそこで寝ている。
鳴き声から名前はピーちゃん。
私の言うことは聞かないけど、ミランダお姉ちゃんの言うことは忠実に聞く。
青い空に白い雲。冬の日のすすけた日差し。
そんな太陽の光を受けて、悠然と飛んでいる。
私のいる樹の上でクルクルと回り、地上に向かってすーっと優雅に降りてくる。
ピーちゃんはリアムの肩に乗り、ピーちゃんを乗せたリアムがこっちにやってくる。
リアムはピーちゃんの頭をなでつつ、淡々とした表情でこっちに来る。
エルフより背が低いけど人間の十六歳としては高め。ちょっと高くてちょうどいい感じ。シュッとしてすっきりしててすかしてる。本物のエルフは綺麗で背が高くて近寄りがたい。でもリアムはそこまで背が高いわけじゃないから、ほんのちょっとだけ馴染みやすい感じがする。
でも、ムッとしていると、近寄りがたい。
なんか旅人っぽい格好をしていた。
膝まですっぽり隠れる茶色いマントを着て、これからどこか遠くにでも行ってしまいそうだった。普段はマントなんか着てない。
フード付きの茶色いマントは薄汚れて見えたけれど、いつもと違った感じで凛々しく見えて、ちょっとだけかっこいいかもしれない。
なんとなく、声をかけるのをためらった。
そう言って、ピーちゃんの足についていたのか、くしゃくしゃに折りたたまれた紙を私の方に投げる。
口を開くといつもと変わらない、幼なじみのリアムだった。
なんだかホッとした。
紙がバスケットのナプキンの上に乗ると、リアムの肩に乗っていたピーちゃんが私の肩に乗る。軽くツメが刺さった。
紙を広げると『至急』と赤く書かれていた。
その下に黒で『シェリルがいなくなったから探してきて』と書いてある。
お姉ちゃんの字だった。
ひっくり返すと、何も書かれていない
機嫌悪そうに言って鳥が居なくなった肩を回し、軽くぼやく。
言いかけた言葉を飲み込んだ。
リアムは私と違って両親の顔を知っている。
お父さんが魔族でお母さんは人間らしい。
だからなのか、親と離れて暮らしていても自信がある感じがする。
リアムの鼻はどうなってんだ?
リアムは私の隣に座った。小さな切り株だったから、リアムの体がくっついてきた。
避けるように身を縮めると、グイグイ座ってくる。
と思っていると、リアムのお腹の虫が鳴る。
ブレンダお姉ちゃんに「リアムに作れ」と言われて作っただけだし……。
でも、少しだけ、頬が熱くなった。
リアムは茶色いブニブニな物体をつまんでいる。
弾力があるから、親指と人差し指でグニグニして遊んでた。
言ったらいけないことは分かっていた。だから言うことができなかった。
それを言えたからなのか、涙が後から後から出てきた。
バスケットを抱え、こちらは見ずにリアムが言った。
自分で作っておきながらナンだけど、食べ物って感じがしない。
こいつは優しさという言葉を知らないのか?
でも、ウチの家族のように、外見だけの優しさよりはいいかもと思った。
どっちも傷つくけど……。
お姉ちゃん、外面がいいから、『いいお姉ちゃん』を演じてたんだわ……。
リアムはそう言って、つまんでいたチョコマフィンもどきを口の中に入れた。
どうしてリアムがそう言ったのか、わからなかった。
リアムの鼻は荒野を
リアムが探るような顔で私を見て言ったから、うなずいた。
言われる前に自分で言った。
すると、リアムは複雑そうな顔をした。
リアムは信じられないことを言った。
そして、ホントに美味しそうにバスケットから茶色い物を出して食べている。
リアムがそんなことを言うから、恐る恐るチョコマフィンもどきをつまんで食べてみた。
さっきと同じで、クソまずかった。
どうしてこらがうまいになるんだ?
でも、リアムはパクパク食べていた。
そう言ってバスケットからもう一個出して食べる。
リアムはパクパク食べる。
リアムは不味いと言わずに食べ続けてる……。
それを見ていたら、涙も引っ込んだ。
そして、茶色い物体を食べながら、何かを考えるように、じっと草原の先の岩山を見ていた。
リアムはバスケットを持ち、私を立たせて岩山の方に移動する。