第1話

文字数 911文字

 頂点を極めた人の言葉には重みがある。
 昨年(2022年)の10月、当院の創立30周年記念式典があった。そこで記念講演があり、演者は、当院が所属する医療グループの体操クラブの米田功(よねだいさお)監督だった。米田監督は2004年、アテネオリンピックで男子体操の主将を務め、団体で優勝。種目別でも鉄棒で3位に輝いた。講演のタイトルは「金メダルへの道」だった。
 彼は小さい時から体操が得意だった。小学校3年の時、大阪市内の名門「マック体操クラブ」に入った。その後、強豪の清風中学校・高等学校に進学し、中学2年生の時に全国大会で初優勝、高校時代はインターハイで個人総合2位になった。順天堂大学に進み、1997年の全日本学生選手権個人総合2位、1998年のNHK杯で個人総合優勝。1999年には全日本学生選手権個人総合優勝、全日本選手権の鉄棒で優勝を果たした。まさに破竹の勢いだった。特に大した練習もしなくても、体が自然に動き結果が出たそうだ。
 その彼が挫折する。2000年のNHK杯ではアクシデントに見舞われ7位となり、シドニーオリンピック代表を逃した。 2003年は、大会1週間前の怪我で満足な練習ができず、跳馬と平行棒で致命的なミスをして世界選手権は補欠となった。
 そこからの再起の道が「金メダルへの道」だった。
 彼は「悔しさから一念発起した」と言うが、その内容は「今までは練習はあまり好きではなかったが、一生懸命真面目に練習した」と実に素っ気ない表現だった。本当は語り尽くせぬ苦労と努力があったのだろう。何よりも挫折から這い上がる気力に頭が下がる。
 その彼の講演の締めくくりの言葉は
 「結果は遅れてやってくる」
だった。

 私たちは日頃、目先の結果を追い過ぎてはいないだろうか…?

 さて、写真は2018年5月23日、田植え直後の庄内平野を走る羽越本線上り特急「いなほ」である。

 米作りはどんなに結果を急いでも田植えから約半年後にしか実を結ばない。その間、雨、風、台風などの自然の脅威に耐え、先祖代々の土地にじっくりと腰を据えて農作業をし、やっと収穫に至る。
 結果が出るのに時間がかかる。
 そんな世界もあるのだ。

 んだんだ。
(2023年3月)

 
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