第1話

文字数 994文字

 制服、チェックのマフラー、一番暖かい靴下。いつものダッフルコート。
 明日着ていく服を眺めて、これじゃあ、絶対に寒いよね、とホカロンを大量にプラス。
 できるだけ荷物を軽くしたいから、リュックの中にはお財布と愛用のデジタル一眼レフだけを入れる。
「よし! 明日の準備はおしまい!」とつぶやいて、ゴロン、とベッドに転がった。
 今夜はシン、としてる。耳をすませても、物音が聞こえない。
 それに、シンシン寒い。
 雨戸を閉めなきゃ。でも外は寒いだろうなぁ……。
 思い切って窓を開け放つと、雪が降っていた。
「寒いわけだぁ……」
 ぶるるっと身を震わせながら、さっきしまったばかりのカメラを引っ張り出して、カシャッとシャッターを切った。液晶モニターで画像を確認。
 うん、悪くない。
 雪がカメラにあたって、すぐに消えた。私は慌ててカメラを拭いて、窓もカーテンもぴったり閉めた。
 明日も寒いんだろうな。
 家でぬくぬく過ごしたいけれど、高校の写真部で冬まつりの写真を撮る予定だ。いい写真が撮れたら、市の広報の冬まつり特別号に載せてもらえるとあって、はりきっていたけれど……。
 撮影場所を決めるジャンケンに負けて、会場から離れた小さな山の上からお祭りの全景を撮ることになってしまうなんて、ついてない。しかも独りぼっちで!
 人物写真が撮りたかったのにな。
 おっと! マイナス思考の沼に落ちちゃうところだった。
 先輩は、「全景は表紙写真になりやすいから、がんばれよ!」って言ってくれたじゃないか。
 落ち込む私に、気持ちが上がる言葉を、さりげなくかけてくれたんだよね。
 さらに「差し入れ持って、様子見に行ってやるな」って笑ってくれた。
 思い出すとふにゃっと頬が緩んじゃう。
 明日、私がファインダーをのぞき込んでいる時に、先輩が「はいっ、差し入れ」って、後ろから声をかけてくれたらいいのにな。
そして「お祭りの気分味わった方が、きっといい写真、撮れるよ」なんて、綿あめを口元に差し出してくれる。
「ありがとうございます。でも……、自分で食べられますよ?」
「ダメダメ、カメラにベタベタ付いたらどうするんだよ。はい、あーんして?」
 思い切って、綿あめにパクっとかじりつく。先輩は私の顔をのぞき込んで……。
「ははっ。やっぱ、ほっぺに付いちゃったね、綿アメ」
 ペロっ
 ……なーんてねっ。 明日の冬まつり、楽しみになってきたかも!
 
 

 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み