はじまり

文字数 707文字

 女子大生三人が部室に集まり恋話でも始める——という雰囲気ではなかった。
 口火を切ったのは二回生の早星(はやほし)だった。

「集まれるのは、これで全員です?」

 いかにも根は勤勉な彼女らしい。今回の企画も彼女の主催である。

 一方、部室の一角に陣取った猫野目(ねこのめ)は実験終わりらしく、白衣のまま、ごろんとしていた。もっとも彼女がいつもそうであるのは周知の事実であり、院生という理由も相まって咎める者はいなかった。

「あ、ひとりバイトで来れなくなったって」

 脱いだローファーを外廊下に置き、南田(みなみだ)が輪に加わる。

 企画内容は読んできたかと訊かれて「うん」「読んだ読んだ」と二人は各々頷いた。
 部室の告知ボードにも貼ってあるが、電気も消してカーテンを閉め切っているせいで、部員二人の顔を把握するのもやっとだった。

 ぱちん、ぱちん——早星はスイッチを入れる。机に置かれた蝋燭の形をした電灯が順に灯っていく。

「じゃあ始めますね、ぺんぬら百物語。えっと、私からでいいですか?」

「いいじゃない。猫先輩は?」

「ボクも早ちゃんからで異存ないよ」

 百物語とは集まった面々が順に怪談を披露していき、話し終える毎に蝋燭を消していく。そうして百話目が終わった時に怪異が現れる——というものだ。

 しかし、たった三人で百話を語るのは現実的ではない。

 だから、この企画を主催した早星はある条件を設けた。

 曰く語る怪談は人から聞いたものでも、ネットから拾ってきたものでも、はたまた自分で創作したものでもいい。元よりここは大学の創作サークルなのだから。

 ただし、ひとつだけ条件があった。

「これは私が体験したことなんですけど——」

 ——話し始めは、必ずその一文でなければならない。
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