第1話
文字数 3,287文字
自分で言うのもなんだけど、オレは超モテる。
まずはとにかく顔がイケてるらしい。
ほんと、自分で言うのもなんだけど、背も高くて頭もいいしスポーツもできるし、歌もうまいし芸術系もいけるし友達も多いし先生ウケもよく、家もまあまあ裕福で、何不自由ない人生だ。
できないことや足りてないものって何?って聞かれるとそっちの方が答えに困る。
だからまあ、その問いに答えられないということが唯一の弱点だった。
そう、なこちゃんと出会うまでは。
高校に入学して初めてなこちゃんと出会った日、まず軽い衝撃を受けた。
背はクラスで一番低く、髪型は今どき見ないきっちりとしたおさげで、超長い。ヘソあたりまである。コントみたいな丸メガネをしててスカートもふくらはぎあたりのハンパ丈で超地味なんだけど、地味すぎて逆に目立つ。
いつでも何入ってんだよってくらいデカいカバンを背負ってた。
ある日そのデカいカバンのせいでオレたちは玄関でぶつかってしまった。
友達と話しててなこちゃんがしゃがんでたことに気づかず、立ち上がったなこちゃんのデカいカバンにぶつかってしまい、なこちゃんは前のめりになって転んだ。
その姿はちょっとコントみたいだった。
慌ててオレは、大丈夫?と、なこちゃんの前に回って手を差し出した。
なこちゃんのメガネはぶつかった衝撃で吹っ飛んでいた。
「大丈夫~」と言って顔を上げたなこちゃんの顔を見てオレは2度目の衝撃を受けた。
かわいい…。
かわいすぎる…!!!
なんだ、この潤んだ瞳は?
黒目がちなパッチリ二重に長いまつ毛。
今まで気がつかなかったけど、なこちゃんの肌は雪色、頬は薔薇。
唇はジェリービーンズでできてるのか!?
…か、わ、い、す、ぎ、る!!
「おい、大丈夫?」
続いて来た友達になこちゃんの素顔を見られないように、オレは速攻メガネを拾ってなこちゃんにかけた。
なこちゃんは立ち上がり、膝をパンパンとはたいて右の手のひらをオレの方へ向け
「お気になさらず。誰しも間違いはありますので。では」
と言って早歩きで去っていった。
あの分厚い眼鏡の奥にあんな綺麗な瞳が隠されていたなんて、これは絶対誰にも知られてはいけない、オレだけの秘密だ。
なこちゃんはオレのものだっ!!
オレは初めて女の子を振り向かせようと考えた。
今まではほっといても向こうから寄ってくるからそんなこと考えたことなかったけど。
そう、だから振り向かせる方法がわからない。
どうすれば好きな人に好きになってもらえるのか分からない。
けど、待てよ?もしかしたらなこちゃんだって変わってるように見えても普通の女の子なんじゃないか?今まであんだけモテてきたんだ。なこちゃんも密かにオレのことを好きだという可能性だってある!
オレは早速放課後なこちゃんを呼び止めて告白した。
「好きです!付き合ってく」
「申し訳ありませんっ」
食い気味に断られた。
まだ最後まで何文字かあるのに。
なこちゃんのお辞儀の角度が深すぎて、デカいリュックに入ってた物がザザーっと逆流した。
コントだ。
なこちゃんの日常はコントでできてる。
そんな日常にものすごくマッチしてしまうなこちゃん。
そんなあのコがほんとはあんなにかわいいなんて。
そんなあのコにこんなに惹かれてしまうなんて。
とにかくそれがオレの初めての挫折だった。
けどまだたったの一回アタックしただけじゃないか。ちょっと告白するのが早すぎただけに決まってる。
オレはもっとなこちゃんと距離を詰めてみようと試みた。けどそれはなかなか大変だった。超人気者のオレが独特のオーラを放つなこちゃんに接近するのは至難の技だ。
見事カップルになってからならいいけど、オレがなこちゃんのことを好きだということを先にみんなにはバレたくはない。
だって
「よく見たら可愛いじゃん」
なんて言ってライバルが増える可能性だってあるんだ。
そのくらい本当に超可愛いんだ。
女の子を振り向かせる方法を研究した。
参考書は流行りの少女マンガだ。
映画化されたやつなら間違いなさそうだ。
ツンデレって女子が好きらしい。きゅんとするらしいって聞いてから、好きでもない女子に対してそんな風に振る舞って練習をした。
やり方は超簡単。
月曜日から木曜日はそんなに優しくしないで、金曜日だけ実行するようにした。
重そうな荷物を持つとか、優しさは見せるけど、言葉はクールにいく。
練習の甲斐あってと言うべきか、その前よりもっとモテるようになった。
普通に優しくしてた時よりモテるなんて意味がわからなかったけど、とにかく練習の成果はあった。
なこちゃんにも試してみよう、と、なこちゃんの相変わらずデカいリュックを持ってあげようとツンデレ形式で言ってみた。
「何入れてんの?こんなデカいリュック。持ってやるよ、なこちゃんのだったら」
「頼んでません。お気遣いなく」
また右手のひらをこちらに向けて断られた。
でも負けるもんか!今日は攻めるぞ!
「貸せよ、強がんなよ」
「カセくん、あなたはなんて強引な方なのですか、良いと言ったら良いのです!」
ショック!女の子に拒否られた!ショック!
「ちょ、待てよ、なこちゃん!」
思わずなこちゃんのリュックを引っ張ってしまい、なこちゃんはまたコントのように後ろにひっくり返った。
その拍子になこちゃんのメガネはまたふっとんだ。
そして、運悪く通りがかった男子がそれを踏んでしまった。
「あーーーーーーーっ!!!」
オレとなこちゃんは同時に叫んだ。
メガネが壊れた。
なこちゃんを見ると、なこちゃんはポロポロと涙を流した。
なんてことだ。オレのせいで。
その思いと同時に湧き上がる思い。
…かっわいいーーー!!
「ご、ごめん!オレ…」
「…ううん、私が変な意地張ったせいだよ。せっかく持ってくれようとしたのに…ごめんね」
ん?
なんだ?これは。
なこちゃんぽくないぞ。
「…カセくん、前に告白してくれたよね。ほんとは…私も好きだったんだ。でも、自信がなくて…カセくんて、モテるから」
「えっ!?マジで!?」
「…うん。あの告白…まだ、有効かな?」
「もちろん!」
そうしてオレたちは付き合うことになった。
メガネなしなこちゃんはそりゃもうこの世のものとは思えないかわいさだ。
だけどやっぱり、なこちゃんぽくない。
右の手のひらをオレに向けて制止したりもしないし、敬語でもないし。
メガネをかけずに学校に来た日は髪の毛も下ろしている。
そのうち気がついた。
なこちゃんはきっと「1人ツンデレ女」なんだ、と。
メガネをかけてる時はツンツンなこちゃん、
メガネをとるとデレデレなこちゃんなんだ。
そんなことあるのか?
いや、なこちゃんなら有り得る。
ということは、このデレデレなこちゃんもメガネが直るまでの期間限定だ。
またあの「拒否り」なこちゃんに戻るというのに、オレはなんだか待ち遠しかった。
メガネをはずして来た日から、即、男子たちがなこちゃんの魅力に気づいたからだ。
とりあえず今はオレのものだけど…この勢い、危ねえ!とられる!
もう待っていられず、放課後なこちゃんとメガネ屋に直行した。
メガネをかけたなこちゃんは、以前のなこちゃんに戻った。
ホッとしたけど、メガネをかけてしまったらまた、オレのことは拒否するんだろうな、右の手のひら向けてさ…。
と思った瞬間、なこちゃんはオレと手をつないだ。
「えっ…なんで、なこちゃん」
「なぜかと問われれば、私たちは恋人だからです」
「えっ!覚えてるの?」
「私は記憶喪失ではございませんので」
「あ、そ、そうだよね」
そして分かれ道でなこちゃんは手を離し、「では」と言って90度のお辞儀をして歩いてった。
去ってゆくなこちゃんの後ろ姿を見送ってると、なこちゃんが振り返って言った。
「カセくん」
「なに?どしたの?」
「私、やっぱりカセくんのこと大好きですっ!」
なこちゃんは大声でそう言うと、また深いお辞儀をして去っていった。
遠くで、なこちゃんがずっこけている。
それでこそ、なこちゃんだ。
ツンツンなこちゃんの堅すぎる愛情表現にもキュンとするほど、オレはいつの間にかツンツンなこちゃんにも恋をしていた。
ツンツンもデレデレも、どっちでもいい。
とにかく、こっち向いてろよ、なこちゃん!
まずはとにかく顔がイケてるらしい。
ほんと、自分で言うのもなんだけど、背も高くて頭もいいしスポーツもできるし、歌もうまいし芸術系もいけるし友達も多いし先生ウケもよく、家もまあまあ裕福で、何不自由ない人生だ。
できないことや足りてないものって何?って聞かれるとそっちの方が答えに困る。
だからまあ、その問いに答えられないということが唯一の弱点だった。
そう、なこちゃんと出会うまでは。
高校に入学して初めてなこちゃんと出会った日、まず軽い衝撃を受けた。
背はクラスで一番低く、髪型は今どき見ないきっちりとしたおさげで、超長い。ヘソあたりまである。コントみたいな丸メガネをしててスカートもふくらはぎあたりのハンパ丈で超地味なんだけど、地味すぎて逆に目立つ。
いつでも何入ってんだよってくらいデカいカバンを背負ってた。
ある日そのデカいカバンのせいでオレたちは玄関でぶつかってしまった。
友達と話しててなこちゃんがしゃがんでたことに気づかず、立ち上がったなこちゃんのデカいカバンにぶつかってしまい、なこちゃんは前のめりになって転んだ。
その姿はちょっとコントみたいだった。
慌ててオレは、大丈夫?と、なこちゃんの前に回って手を差し出した。
なこちゃんのメガネはぶつかった衝撃で吹っ飛んでいた。
「大丈夫~」と言って顔を上げたなこちゃんの顔を見てオレは2度目の衝撃を受けた。
かわいい…。
かわいすぎる…!!!
なんだ、この潤んだ瞳は?
黒目がちなパッチリ二重に長いまつ毛。
今まで気がつかなかったけど、なこちゃんの肌は雪色、頬は薔薇。
唇はジェリービーンズでできてるのか!?
…か、わ、い、す、ぎ、る!!
「おい、大丈夫?」
続いて来た友達になこちゃんの素顔を見られないように、オレは速攻メガネを拾ってなこちゃんにかけた。
なこちゃんは立ち上がり、膝をパンパンとはたいて右の手のひらをオレの方へ向け
「お気になさらず。誰しも間違いはありますので。では」
と言って早歩きで去っていった。
あの分厚い眼鏡の奥にあんな綺麗な瞳が隠されていたなんて、これは絶対誰にも知られてはいけない、オレだけの秘密だ。
なこちゃんはオレのものだっ!!
オレは初めて女の子を振り向かせようと考えた。
今まではほっといても向こうから寄ってくるからそんなこと考えたことなかったけど。
そう、だから振り向かせる方法がわからない。
どうすれば好きな人に好きになってもらえるのか分からない。
けど、待てよ?もしかしたらなこちゃんだって変わってるように見えても普通の女の子なんじゃないか?今まであんだけモテてきたんだ。なこちゃんも密かにオレのことを好きだという可能性だってある!
オレは早速放課後なこちゃんを呼び止めて告白した。
「好きです!付き合ってく」
「申し訳ありませんっ」
食い気味に断られた。
まだ最後まで何文字かあるのに。
なこちゃんのお辞儀の角度が深すぎて、デカいリュックに入ってた物がザザーっと逆流した。
コントだ。
なこちゃんの日常はコントでできてる。
そんな日常にものすごくマッチしてしまうなこちゃん。
そんなあのコがほんとはあんなにかわいいなんて。
そんなあのコにこんなに惹かれてしまうなんて。
とにかくそれがオレの初めての挫折だった。
けどまだたったの一回アタックしただけじゃないか。ちょっと告白するのが早すぎただけに決まってる。
オレはもっとなこちゃんと距離を詰めてみようと試みた。けどそれはなかなか大変だった。超人気者のオレが独特のオーラを放つなこちゃんに接近するのは至難の技だ。
見事カップルになってからならいいけど、オレがなこちゃんのことを好きだということを先にみんなにはバレたくはない。
だって
「よく見たら可愛いじゃん」
なんて言ってライバルが増える可能性だってあるんだ。
そのくらい本当に超可愛いんだ。
女の子を振り向かせる方法を研究した。
参考書は流行りの少女マンガだ。
映画化されたやつなら間違いなさそうだ。
ツンデレって女子が好きらしい。きゅんとするらしいって聞いてから、好きでもない女子に対してそんな風に振る舞って練習をした。
やり方は超簡単。
月曜日から木曜日はそんなに優しくしないで、金曜日だけ実行するようにした。
重そうな荷物を持つとか、優しさは見せるけど、言葉はクールにいく。
練習の甲斐あってと言うべきか、その前よりもっとモテるようになった。
普通に優しくしてた時よりモテるなんて意味がわからなかったけど、とにかく練習の成果はあった。
なこちゃんにも試してみよう、と、なこちゃんの相変わらずデカいリュックを持ってあげようとツンデレ形式で言ってみた。
「何入れてんの?こんなデカいリュック。持ってやるよ、なこちゃんのだったら」
「頼んでません。お気遣いなく」
また右手のひらをこちらに向けて断られた。
でも負けるもんか!今日は攻めるぞ!
「貸せよ、強がんなよ」
「カセくん、あなたはなんて強引な方なのですか、良いと言ったら良いのです!」
ショック!女の子に拒否られた!ショック!
「ちょ、待てよ、なこちゃん!」
思わずなこちゃんのリュックを引っ張ってしまい、なこちゃんはまたコントのように後ろにひっくり返った。
その拍子になこちゃんのメガネはまたふっとんだ。
そして、運悪く通りがかった男子がそれを踏んでしまった。
「あーーーーーーーっ!!!」
オレとなこちゃんは同時に叫んだ。
メガネが壊れた。
なこちゃんを見ると、なこちゃんはポロポロと涙を流した。
なんてことだ。オレのせいで。
その思いと同時に湧き上がる思い。
…かっわいいーーー!!
「ご、ごめん!オレ…」
「…ううん、私が変な意地張ったせいだよ。せっかく持ってくれようとしたのに…ごめんね」
ん?
なんだ?これは。
なこちゃんぽくないぞ。
「…カセくん、前に告白してくれたよね。ほんとは…私も好きだったんだ。でも、自信がなくて…カセくんて、モテるから」
「えっ!?マジで!?」
「…うん。あの告白…まだ、有効かな?」
「もちろん!」
そうしてオレたちは付き合うことになった。
メガネなしなこちゃんはそりゃもうこの世のものとは思えないかわいさだ。
だけどやっぱり、なこちゃんぽくない。
右の手のひらをオレに向けて制止したりもしないし、敬語でもないし。
メガネをかけずに学校に来た日は髪の毛も下ろしている。
そのうち気がついた。
なこちゃんはきっと「1人ツンデレ女」なんだ、と。
メガネをかけてる時はツンツンなこちゃん、
メガネをとるとデレデレなこちゃんなんだ。
そんなことあるのか?
いや、なこちゃんなら有り得る。
ということは、このデレデレなこちゃんもメガネが直るまでの期間限定だ。
またあの「拒否り」なこちゃんに戻るというのに、オレはなんだか待ち遠しかった。
メガネをはずして来た日から、即、男子たちがなこちゃんの魅力に気づいたからだ。
とりあえず今はオレのものだけど…この勢い、危ねえ!とられる!
もう待っていられず、放課後なこちゃんとメガネ屋に直行した。
メガネをかけたなこちゃんは、以前のなこちゃんに戻った。
ホッとしたけど、メガネをかけてしまったらまた、オレのことは拒否するんだろうな、右の手のひら向けてさ…。
と思った瞬間、なこちゃんはオレと手をつないだ。
「えっ…なんで、なこちゃん」
「なぜかと問われれば、私たちは恋人だからです」
「えっ!覚えてるの?」
「私は記憶喪失ではございませんので」
「あ、そ、そうだよね」
そして分かれ道でなこちゃんは手を離し、「では」と言って90度のお辞儀をして歩いてった。
去ってゆくなこちゃんの後ろ姿を見送ってると、なこちゃんが振り返って言った。
「カセくん」
「なに?どしたの?」
「私、やっぱりカセくんのこと大好きですっ!」
なこちゃんは大声でそう言うと、また深いお辞儀をして去っていった。
遠くで、なこちゃんがずっこけている。
それでこそ、なこちゃんだ。
ツンツンなこちゃんの堅すぎる愛情表現にもキュンとするほど、オレはいつの間にかツンツンなこちゃんにも恋をしていた。
ツンツンもデレデレも、どっちでもいい。
とにかく、こっち向いてろよ、なこちゃん!