第21話源氏学者 日向女史

文字数 1,077文字

午後2時、30代後半と見える華奢で美しい女性が入って来て、飛鳥の前に座った。
飛鳥は、ふんわりとした笑み。
「いらっしゃいませ、日向先生」
その声かけも、いつにも増して、しっとり上品になっている。

日向は、飛鳥をうっとりと見る。
「うーん・・・この顔なの・・・」
「この飛鳥君の顔を、文で表現したいの」
「雅?清らか?もうね、見とれちゃうの」
「飛鳥の君だよ、本当に」

飛鳥は、恥ずかしそうな顔。
「困ります、憧れの日向先生です」
と言いながら、ミントの冷水を日向の前に置く。

日向は、そのミント水を、少し飲み、飛鳥の顔を再び見る。
「ねえ、飛鳥君、この間の話」

飛鳥も、日向の顔を見る。
「浮舟のことですよね」
「難しいですよね、なかなか結論が出ない」
日向
「源氏物語に出て来る最初の女は桐壺更衣」
「最後に出て来るのは、浮舟」
飛鳥
「桐壺更衣は、女性による女性に対する身分差別」
「帝の前以外では、苛められて人間扱いもされず」
「もちろん、桐壺帝が異常過ぎる愛情を、彼女に注いでしまったことが原因」

日向が、うんうん、と頷くので、飛鳥は続けた。

「浮舟は、源氏物語に出て来る女性の中でも、身分的にはかなり低い」
「帝の孫ですが、母の身分が低い」
「その母の連れ子として、田舎の官僚の養女になるけれど、そこにでも馬鹿にされて落ち着かず」
「都に戻って見れば、薫と匂宮の間で、苦労する」
「匂宮は天性の遊び人ですが、薫はまた、難しい、真面目だけど」
「男と男の間で取り合いされるだけの人形かと」
「どちらも人間扱いされていなかった、それは共通しています」
「ただ、浮舟は、自らの意思で、死を選んだ、死にきれなかったけれど」

そこまで話して、飛鳥は水を飲み、黙った。
さすがに、長口舌をし過ぎたと思ったらしい。

日向
「その通りだよね」
「いろいろ酷い扱いを受けた女は多いけれど」
「それが、当時の女の立場かなと」
「でも、いいとか、悪いとか、今の尺度で言うべきではないかもね」

飛鳥は、日向の前に、抹茶と干菓子を置く。
「薫もわからなくてね、かなり複雑な性格」
「不倫の子であることを隠し続ける苦労もありますけれど」

日向
「何故、あんなキャラを物語にいれたのかなって?」

飛鳥が頷くと、日向はため息。
「わかりません、作家が、紫式部が、そう書きたかっただけかな」
「永遠の難問だよ」

飛鳥は話題を変えた。
「暇ができたら、長谷寺に行こうかと」
「観音様と結縁して来ます」

日向は含み笑い。
「案内しましょうか?」

飛鳥はにっこり。
「はい、その時には、玉鬘の話をしてください」

と、そうは言ったものの、飛鳥は当分、旅行どころか、休みも取れないのが現実である。
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