第1話 道祖神、見廻り隊をつくる

文字数 989文字

「道祖神さま、如何致しましたか?」
 河童不動産の入り口でもじもじしている道祖神に河童の川太郎が歩み寄る。
「いやね、希望通りの立地で日当たりも申し分ないんだけどね」
 大抵の神は前置きの後でとんでもないことを言う。
「何でございましょう」
「子は宝だ。それは分かってる。だが、うちの裏の狭い川原で運動会や水泳の練習をやらなくてもいいと思うんだ。水神さまの水神川や近くに人間が使う運動場もあるだろう」
「はあ、子供達の声がうるさいと。お引っ越しをご希望ということでしょうか?」
「いやいや、そうじゃないんだ。大人が誘導をうまくやれば子供達も広い場所で出来ると思うんだ」
「はあ、それでしたら地域課の実行委員会に連絡してみますけど」
「いや、うん、だからあ!」

 シルバー人材派遣のゼッケンを付けた道祖神やボランティアの稲荷狐たちが黄色い旗を持って子供達を並ばせる。河童や狐狸の子供達は一列になり嬉しそうに歩いて行った。
「やれやれ、素直に最初から言えばいいものを……」
 川太郎が先輩の銀次に愚痴を言うとにやりとした。
「回りくどいのは、いつもの事だろ」
「そうなんですけど、何を言い出すのかハラハラして。この仕事、棲み家探しの後の方が大変ですね」
「やり甲斐あるだろう」
 銀次は一番の古株で達観している風情だった。そんな銀次に仕事を紹介して貰った手前、愚痴ばかりもいってられない。
「仕事に戻ります」
「はいよ」
 仕事に戻ると電話が鳴りっぱなしで、事務の七子がこちらを恨みがましい目で見つめた。川太郎が慌てて電話を取ると、古参の神たちからの道祖神へのクレームだった。
「不都合が、え? そうじゃない、はあ」
「代わるか?」
 心配して声をかけてきた銀次に丁重に断ると、銀次は頷いて自分の席に戻っていった。
「はい、分かりました。曜日ごとに担当者を決めましょう。はい、地域課の実行委員にはこちらから連絡しておきます」
 電話を切って、深くため息をついた。
「俺達にもやらせろとか、他の神から言われたか」
 銀次は何かをメモに書いて渡してきた。
「彼の言うことなら皆従うだろう」
 メモには地蔵菩薩の連絡先が書かれていた。道祖神としての顔もあり、子供の守り神で人間界でもお地蔵さんと親しまれている。
「ワガママな、じゃなかった、個性的な神たちのリーダーになって子供たちを見守って頂けますか」
 地蔵菩薩はにっこりと微笑んだ。


 了
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