プロローグ:鈍色の海

文字数 292文字

 海から突き出た鉄骨の上に、鳥が一羽とまっていた。鈍色の水面を眺めて、飛び立てずにいる。

 沖合を行き交う船。おれは知っている。波の上の潮の匂いを。低く垂れ込める、雲と海の色が同じになる間際、水平線のあたりに、淡い輝きがあらわれることを。

 無数の支柱は、海苔漁の豊凶を占うもの。

 長い紆余曲折を経て、ようやくたどり着いた真水は、海水に受け止められて、大いなる交わり。

 そうしたところでしか生まれないものを集めに出て行った、遠い日のまぼろし。

 干潮が明らかにした海への道。いつまでもいつまでも歩いて行けそうな道が、いま、目の前にあるというのに、時がおれを黒塗りに乗せて引き離していく……。
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