第1話

文字数 1,661文字

 小型宇宙船、ダスカバリー号は目的へ向かっていた。
 母船から放たれた彼らの使命は、εγ系の惑星に存在しているらしい異星人との交流だ。母船からの観測では、複数の惑星から生命の存在を推定している。
 εγ系に近づくほどに生命体検知器の反応は強くなる。ダスカバリー号は惑星群へ近づいていく。
「隊長、前方小惑星群の一番手前の星に知的生命体がいるようです」
 調査隊員のエフは興奮を抑えず報告した。
「OK! アール隊員、進路をそのままに保って航行せよ」
 隊長は操縦隊員のアールへ言った。
 船は星に近づく。
「隊長、大気は酸素と窒素が主。地球の空気に近いです。毒性のものもありません」
 エフ隊員はパネルを操作しながら言う。
「よし、気温と気圧はどうだ」
「それも問題ありません!」
「よし、アール隊員着陸地を探査せよ」
「了解、周回軌道に乗ります」
 その小惑星はかなりいびつな形の星だった。広く森や木に覆われていたが、着陸出来そうな平地を見つけた。
「隊長、N6-W12の地へ着陸許可を願います」
「よし、慎重に着陸せよ。エフ隊員、超自動翻訳機の準備もいいな」
 この新機種さえあれば、もはやどのような伝達手段を持っている生命体との会話も不可能でない。ただ、相手のデーターを取り込む時間が必要なので、機能するまでに少し時間はかかる。
 ダスカバリー号はアール隊員の見事な操縦で静かに着陸した。
 生命体検知器の針はピークに達している。
「間違いない。生命体はいる!」
 操縦隊員のアールを船に残して、隊長とエフ調査隊員の二人が地上に降りて宇宙船の周りの調査を始めた。すると、目の前に大きな白色のガスが発生した。それは地中から湧き上がってきた。
「うわっ なんだ」
 そして、異音を伴って凝縮し始めた。
「ムム、気をつけろ」
 身構えていると、異音は音声に近いものになり、ガスは縮まるに従って、我々地球人の形に変わってきた。
「ヨウコソ。チョウサタイ ミナサン」
 完全に地球人と同じ姿になったそれは、口を開いた。
「やや!」
「地球語が分かるのですか?」
「ハイ、ワレワレ ドンナ セイメイ トデモ カイワ デキマス」
「おお! 超自動翻訳機を使うまでもないようだ」

 そして判ったことは、彼らは非常に高度な能力を持ち、訪れた相手に合わせて瞬時に自分らの姿を変えることが出来るということだ。実際、握手をしたが何の違和感もなかった。
 隊長は満足げに言った。
「うん。異星人との交流計画の第一歩は成功しそうだ。もっと別な個体からも話を聴こう。エフ隊員、調査を頼む」
「アイ-アイ-サー!」
 若くて怖いもの知らずのエフ隊員は前へ進んだ。
「別な方とも交流したいのですが、どちらへ行けばいますか」
「アチラ ハヤシノ ホウヘ イッテ クダサイ。カンゲイ オモテナシ スルデショウ」
 エフ隊員は使命感を負って出かけた。
 残った隊長はもっとその異星人と会話をしたかったが、その異星人は白いガスに変わり、地中に吸い込まれるように消えてしまった。
 エフ隊員が着いた先では、なんと七色のガスが発生し、今度は美しい女が現れた。
 そして、とても素晴しい歓待をしてくれた。

*

「結局あの星は知的生命体が二人しか出てこなかったな。変な星だったな」
 次の小惑星へ向かう宇宙船の中で、隊長がアール隊員に話している。
 エフ隊員はまだうっとりしている。
 と、超自動翻訳機が鳴り出した。
「おや! データー解析終了のアラームだ。でも、今ごろ何で作動するのだろう?」
 不思議そうな表情でエフ隊員がチューニングをすると、会話が聞こえてきた。
「ああ、二億五千万年ぶりに繁殖できるわ」
「いいな。私なんか母星から分裂して五億年以上何も無しよ。こうして宇宙に浮かんで他の生命体を待っているのって飽きたわ」
「しかたがないでしょう。雑性浮遊型星生体の運命よ。でも、チャンスよ。どうやらあの宇宙船が、あなたの方へ向かっているようよ。生殖器の近くに着陸しやすいよう、広場を作ってあげておいた方がいいわよ」
 なぜか宇宙船の中では論争が始まった。  【了】
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