第6話

文字数 700文字

 自身がなんらコミットしてはいない事象に、無関係な自分が苛まれている。そう溝口は認識しているが、それも認識いている《つもり》なのかもしれない。より正確には《つもり》でもないようだ。その証拠には、彼は外部現実世界に助けを求めようとするところがない。彼自身もそのことこそが不安だったのである。助けを求めようとしないのは、現実世界に接触の手を伸ばしたが最後、なにか決定的に彼にとって不都合なことが暴かれ露見してしまうのではないか? つまり自分はその正体がなにであるか思い当たらないが、何かについて有罪なのではないか?
 八月にしては肌に涼感のでる夕暮れとなり、遺体は廊下に残したまま、溝口は居室内のカーペットに尻を落とし凝固していた。
 夏の終わりの蜩の声に聴覚が反応するにつけ、わが身が哀れまれてならなかった。親からの勘当まで甘受して《守り児》の職業を選択したこと。
「なにもできない人間になってしまったではないか」ポツリと浮かぶのはそんな思念ばかりで、とても自分をたよりなく、淋しいものに感じた。
 開け放たれた窓が寒々しくさえ感じられ、なによりも監視の《眼》を吸い寄せそうなおそろしさに、溝口は窓を閉めようと立ち上がりかけた。
 そこへ玄関に立ち現れたノイズ&エキサイトメント、それに対して溝口は身を固めて、こんどこそは的確な対応をしてみせようと身構えた。
 それは季節はずれの例えにはなるが、溝口には満開の桜が何本も、がやがやと、乱暴狼藉を働こうと自分の部屋を急襲したような、あってはならない危難がいますぐにも自身の部屋へと充満する過程と感じられた。
 迎え撃つことは不可能に思われた。
 として、どこに逃げよう?
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