第6話

文字数 1,365文字

 何度も言うが我が家のリビングは狭い。
 それでも頑張って以前は一人がけの小さなソファを置いていたが、陽介とルームシェアをするにあたって撤去した。
 ガラステーブルを挟んで久遠あずさと陽介が向かい合って座り、少し離れたキッチンの前に置いたスツールに、俺。
 もっとこっち来てよ、という陽介の頼みは窮屈だから嫌だと言って断った。
 並んだふたりを見て、久遠あずさが初めてこの家を訪れた時のことを思い出す。端からはこんな風に見えるんだな、と冷静な頭で考える。

「さっさと始めろよ」
 押し黙って微動だにしないふたりにしびれを切らして促すと、先に口を開いたのは久遠あずさの方だった。
「なんで別れたいの。ちゃんと説明して」
「うん、その」
「はっきり言ってくれて構わないから」
「うん。オレたちそろそろ結婚って感じだったじゃん。もうそろそろ良い歳だし。お互いの両親もそんな感じで」
「うん」
「でも、オレは結婚とかまだちょっと違うかなって」
「うん」
「だから、もうしばらくこのままでいいやって思ってたんだけど、そう言う中途半端なの、よくないなって思って。あずさがさ、待ってくれてるのはわかってるんだけど、それもちょっと負担って言うか」
 そこまで陽介が言ったところで、久遠あずさがちょっと待って、と制止した。先程まで冷静に見えた表情がみるみる強ばっていく。
「負担ってなに。わたし待ってるなんて一言も言ってないけど」
「え?」
「まだ結婚はしたくないから待ってくださいなんて言われてないよ、わたし。だから待ってるつもりもない。それが負担ってなに」
「え?いや、そうかもだけど」
「そもそも、わたしから結婚したいなんて言ったことあった?ないよね?わたしもまだ結婚はしたくないよって言ったらどうするの?」
「え?」
「結婚待たせるのが負担になってるっていうなら、私も結婚したくないなら解決じゃない。別れる必要ない」
「いや、だってそれは」
「それは、なに」
「あずさの本心じゃない」
「本心ってなによ!なんで陽介がわたしの本心決めるの!」
「そんなつもりは」
「違うでしょ。単純に気持ちが冷めたんだよ。
 なくなったの!わたしのこともう好きじゃないの!なんで誤魔化すのよ!」
「いや、誤魔化してないよ!好きじゃないわけじゃない」
「好きじゃないよ!」
「そんなことない!」
「嘘つき!」
「嘘つきってなんだよ!オレは嘘つきじゃない!」
「なんで良い人ぶるの!陽介は上っ面ばっかりの嘘つきだよ!人の良さそうな顔してほんとはドライで自分本意で頑固者!」
「そういうあずさだって自分本意だろ!オレのことわざと傷つけようとしてる!」
「そんなことない!」
「そんなことある!オレだってちゃんと考えてる!オレだけじゃなくてあずさのことも!」
 次第にヒートアップしていくふたり。思ったよりも火がつくのが早かった。
 さてさて出番がやってきたとばかりにスツールから降りた俺はふたりの側に行き、なだめようと間に入る。
「いや、ちょっと落ち着こうよ。二人とももうちょっと冷静に…」
「うるさい!」
 ふたりの声がこれでもかとキレイに重なる。
「宏樹は、黙ってて!」「桧山さんは黙ってて!」
 おいおい、息ピッタリじゃねぇか。こんな損な役回りを俺に押し付けたのはどこのどいつだっけ?こんな理不尽なことってある?
 俺は口を噤んで一人静かに家を出た。
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