プロローグ、または、佐納初海の備忘メモ

文字数 624文字

 私、佐納初海(さのうはつみ)は、27歳にして、新たな仕事を始めることになった。先月、高校を出て18歳で最初に就いた職を辞したから。
 …職を辞す。正確には、お払い箱? ちょっと違うな、役割終了? うん、そう。役割終了。お世話係(いわゆる『ねえや』というやつ)として見守って来た貴禰お嬢様(“お嬢様”と本人に言うと怒られるんだけど、でも、私の雇用主である貴禰さんのご両親や、お屋敷の他の使用人の皆さんとの間では“貴禰お嬢様”で通しているし、そうでもしないとついつい、こういう方たちの前でも“貴禰さん”と呼んでしまいそうになるんだもの…)が、全寮制の学校に入ることになったから。

 私、もう15歳なのよ、お世話係無しでやっていける年齢よ、ごめんなさいね、勝手に決めて―。そう詫びられたけれど。私は知っている。これが、『ねえや』として私をこのまま傍に置き続けたら、私が私の目指す人生を進むことを難しくしてしまうと考えた、あの子、貴禰お嬢様の、優しい配慮だということを。

        ***

 一緒に過ごした9年ほどの間、私は、貴禰お嬢様がしたこと言ったこと、一緒に話をしたことなんかを、折々にモバイルのカレンダーメモに書きつけた。いわば、『お嬢様観察日記』。ほんの数行のメモにすぎないけど、読むと、どれもがその時のことを鮮やかに思い出させてくれる。
 モバイルの『日付ランダム選択機能』を使ってセレクトして少しずつ読み返すと、これがまた面白い。ちょっとした物語みたいだわ―。
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