男の指が

エピソード文字数 847文字

 男の指が私の胸に触れた。敏感に張り切った先にそっと触れ合わせる。とたんに、びりっとした感覚が体内に爆ぜた。
「っ」
 喉を反射的に仰け反らせた。たちまち、全身に刻まれた儀式の痕が疼き出す。溶けていた痛みが、また下肢のあたりで目覚める。私は腰と唇、胸を捉えられたまま喘いだ。男の指と舌は構わずに私を確かめる。思わぬ快感と痛みが、交互に灯る。私は奥歯を食いしばる。
何をしているのだ、私は。何をされているのだ。私は何処へ行こうというのだ。いや、私は何なのだ。
 私は何を望んでいるのだ。否。
 私は、生きたいのか。
「……」
 なぜか笑いが込み上がってきた。快感に蕩けてきた身体が、揺れた。
「いいのか」
 私の身体を確かめ続ける男に訊いた。鎖骨の窪みに舌を埋めていた男の動きが、止まる。
「私でいいのか。私を抱くのか」
 男の舌が離れた。下から、私を仰ぎ見る。私はその眸ではなく、彼の身体の周辺でたゆたう布の色彩を見つめていた。
「お前の種族には女はないのか。お前の種族にも、こうして十数年に一度、儀式を課せられた者がいるのか」
 私のように。
「──我が石獣族には女はない。もう遥か太古から、女という性は絶えている。知っているか。生物には、種を受け継ぐために、己の性を変態させる本能がある。石獣族も同じだ。本来子を成す女がいないために、十数年に一度、この儀式を行う。そうして選ばれた者を、子が成せる身体へ変態させるのだ」
 語れば語るほど、我が身のことではないように思えてきた。どこか遠い、地平の果てのお伽噺のようだと。
「選ばれた者は百夜通して同族の男と交わる。繰り返し繰り返し。そうして百夜、男の精を受けた時──」
 言葉を切った。これは運命。宿命。
 そう言い聞かされてきた言葉だけが、私の中には詰まっている。
「私は進化する。男でも女でもない。けれど子が成せる、王へと」
 そうだ。進化してこそ、私は王なのだ。それが私の存在意義。
 進化した王になる以外に、私には生きる意味がない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み