【side陸】

文字数 2,373文字

「……あっ!!」

俺は人混みを避けて境内の隅の方にいる人影を見て、思わず声が出た。

流石、大吉!!
すでに運気爆上がりじゃん!!

さっき引いたおみくじの結果を思い出し嬉しくなる。
新年早々、豊田さんを見かけるとか、俺、持ってるよな?!

「あ~!でも!話しかけたらヤバくね?!親と一緒みたいだし?!」

浮かれすぎて頭を抱える。
いやでも!クラスメートだし!新年の挨拶で声かけても良くね?!
上手くしたら、そこから会話が進むかもしんねぇし!!
駄目なら挨拶だけして速攻撤収すれば良いんだし?!
よし!大吉!!頼んだぞ!!

「お!陸!あっち甘酒配ってる!!」

「ぐえっ。」

「行こうぜ?!タダだし!!」

気合十分、そちらに向かおうとしたが、一緒に来ていた悪友に上着のフード部分を引っ張られた。
何気に首が締まった。

「離せ!苦しいって!!」

「お~、ワリィワリィ~。」

「つか、行ってこいよ。俺いらねぇし。」

「何でだよ~、一緒に行こうぜ?!」

なんで祐司は一人で行こうとしないんだよ。
お前って小便行く時も誰か誘うよな?!
何なんだ?!寂しがり屋か?!

「俺はいいって!野口達はどこ行ったんだよ?!」

「え~??誰かに会ってどっかで捕まってるんじゃね??」

確かにあり得る話だ。
だが俺は!今は豊田さんを見てたいんだよ!!
そしてあわよくば声を掛けたいんだよ!!

豊田さんは物静かなクラスメートだ。
昔、席が後ろになった事がある。
その時、豊田さんは本を読んでいて、実は俺はその話が物凄く好きでめちゃくちゃ話したかったんだ。
ライトノベルじゃない本を読むようなヤツはまわりにいないから、中々その熱い思いを語れる所がなかった。

だがそこで俺は失敗した。
ダチと話すいつものノリで声をかけてしまったのだ。

「あ!!それ!!『老の坂』じゃん!!」

「え?!」

「うっわ!読んでるヤツ初めて見た!!」

「あ、すみません……。」

「俺それ、めっちゃ好きなんだよ!!酒呑童子、ヤバくない?!」

「あ……。はい。……読んだんですか?これ?」

「お~!姉ちゃんが課題図書??とか言うので買ってきてさぁ~?!初めはそんなフツーの本とか読めねぇって思ったんだけど~、姉ちゃんの話聞いてたら気になって読んだらもう!!ガチやばかった!!」

「……確かにヤバイですね、酒呑童子。」

「だよね!だよね!!」

俺のノリに豊田さんは困惑していたが、邪険にしたり嫌な顔したりせず聞いてくれた。
今考えれば「大人の対応」と言う奴だったのかもしれない。
でも俺はそんな事にも気づかず、好きな本の話ができる事が嬉しくて声が大きくなっていた。

「なになに~?大木、珍しい子と話してんじゃん?!」

そこに野口が割って入ってきた。
俺は自分のダチだったから気にしなかったんだ。
豊田さんがどんな反応だったかなんて見てなかった。

「お~、この子が俺の好きな本読んでて……。」

「ん~??……え?!ガチ本じゃん?!うっわ、俺、こう言うの読めねぇ~。」

「でもマジ面白いんだって!!」

「て言うか、俺ら高校生じゃん?面白いとかどうでもよくて、まずそういう本とか触んねぇし。」

「おい!」

野口は顔とノリは良いが、少し頭が悪くて思った事を考えなしに口にする所がある。
しまったと思った。
俺は慌てて豊田さんを見た。
案の定、彼女は俯いて固まっていた。

「あ、あの……ごめん……。」

「いえ、大丈夫です……。こちらこそごめんなさい。」

豊田さんはそう言って机に向かってしまった。
野口は気にするでもなくそのまま俺に話しかけてきて、そんでもってチャイムが鳴ってしまって、ちゃんと謝る事も弁解する事も、そして「老の坂」の話をする事もできずに終わってしまった。
その後もなんとなく気まずく話せないまま、席替えとなってしまった。

でもそれから俺は豊田さんが気になってしまった。

初めは罪悪感からだった。
でもだんだん、今度は何を読んでるんだろう?面白い本だろうか?面白かったら教えてくれたりしないだろうか?と思うようになった。
そして次第に、本の話じゃなくて普通に話したいと思うようになった。

そう、多分俺は……。

「よ!大木!!隣のクラスの女子達と会っちゃってさぁ~!!」

「ぐえっ?!」

豊田さんをチラ見しながら、祐司がブーブー文句言いながら一人で甘酒を取りに行ったのを待っていたら、いきなり首周りに腕を巻かれた。
睨みつけると野口だった。
くそう、俺はお前のせいでファーストコンタクトに失敗したんだからな?!

「おい!首絞めんな!野口!!」

「え~?!なんでなんで~?!」

何となく気になって豊田さんのいた方を見る。
でもそこにはもう彼女はいなかった。

うわ~!!せっかくのチャンスが!!
大吉ラッキーが祐司と野口のせいで無駄になったじゃねぇか!!

「で、皆でこれからファミレス行くから!!」

「は?!なんで?!」

「何でって、このまま男だけでつるんでてもムサイじゃん?!」

「つうか俺、財布持ってきてねぇよ。」

「スマホあんじゃん??ネットPayで良くね??」

相変わらずマイペースと言うか、人の話とか状況を見ない奴だよな、野口。
それまでは気にならなかったのだが、俺はあの一件以降、野口のそういう所を少し苦手に感じていた。
悪い奴じゃないんだけどな。

「悪い、夜に親戚来るから帰って来いって言われてんだよ。」

「え~?!親戚とかどうでもよくね?!ノリ悪ぃ~。」

「いや、この時期のお客さんは大事だろ?!高校入るとくれる人とくれない人がいんだから。」

「あ~。なら、今度奢れよ?!」

「もらえるかわかんねぇんだし、やなこった!!」

俺はそう言って野口を引き離した。
甘酒を取ってきた祐司も帰ると言うので、ここからは野口達とは別れて行動する事になった。

「……アイツ、なんかだんだん付き合いにくくなってきたよなぁ~。」

祐司がボソッと呟いた。
持ってきてくれた甘酒を受け取りながら、俺は何も言わなかった。
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