第1話

文字数 1,068文字

 今日は 2023年3月6日、「啓蟄(けいちつ)」だ。
 【啓蟄】二十四節気の一。冬ごもりの虫が地中からはい出るころ。( goo 辞書から引用)

 先日の外来での話。
 「もうすぐ冬も終わりですねぇ。今年の冬はどうでしたか?」
 「んだ。雪は少なかったが、冷えたの。」
 いつも感心する。庄内の人たちは、冬を的確に表現する。
 確かに、今年は例年に比べて雪は少なく、除雪を冬の収入源としている建設業者は悲鳴を上げているそうだ。そして、十数年に一度の大寒波に見舞われ、町は冷え水道管が凍結した。

 でも、春の気配は自分にもよく分かる。
 地元温泉の朝風呂の人数がだんだんと増えた。極寒の朝6時過ぎにはさすがに数名だった常連の数が、一人、二人と増えて行く。朝風呂から帰る頃には、空が薄っすらと明るくなった。
 雪靴から解放され、足元が軽くなった。運転する車のアクセルの感覚が足の裏に伝わる。運転がキビキビとなった。外気温が2℃であっても、車内の暖まり方が速くなった。
 声が大きくなって、話し方も速くなった。
 屋外で人と話す機会が多くなった。
 重い腰が軽くなり、撮り鉄に行く機会も増えた。
 写真は天皇誕生日の2023年2月23日の朝風呂の帰り、雪を戴く鳥海山が綺麗だったので、鳥海山を背景の定番の撮影地で撮影した羽越本線上りの貨物列車である。

 雪がほぼ消えた農道に車を停めて、三脚を立ててカメラをセットした。と、その時、一台の乗用車が農道を徐行しては止まり、徐行しては止まりながらこちらにやって来た。一目見て、撮影地を探しながら運転する撮り鉄に特有の運転だった。その車は私の近くに停まった。
 降りて来たのは一人の小母(おば)さんだった。果たして小母さんは撮り鉄かなぁ?と半信半疑だったが、首から望遠レンズを装着したカメラがぶら下がっていた。 ホントの撮り鉄小母(おば)さんだ!
 「ここで撮影しても邪魔になりませんか?」
 「大丈夫ですよ。でも、この次来るのは貨物列車ですよ。」
 「ええ、私、貨物ファンです…。」
 驚いたことに彼女は筋金入りの、自分以上の機関車ファンだった。今まで地元で何回も貨物列車を撮影したが、彼女とは今回が初対面だった。
 「私、地元です。車のナンバーを見て下さい。」
 「ん? おぉぉ~~っ!!」
 何と車のナンバーは羽越本線を走るEF 510形交直流電気機関車(↑写真の機関車)の型番と同じ、 510 だった。わざわざ選んだそうだ。恐れ入りました。

 春になると人が動き出す。春は新入学、新入職など初めての人と出逢うことの多い季節なのだ。
 んだんだ!
(2023年「啓蟄」)
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