第四話 麻倉北斗
文字数 1,128文字
「ねえ、昨日の配信聴いた? LIV の新曲公開してたやつ」
「ラブソングなんて珍しいよね。でも、めちゃくちゃよかった。なんてゆうか、心臓にくる」
「あのクリアボイスで囁かれるカンジ、たまんないよね。聴いた瞬間死んだもん」
教室で飛び交う会話に、イヤホンでそっと耳を塞ぐ。
一番後ろの隅っこの席で、机に突っ伏しながら空想にふける。
一目惚れだった。
部活帰りで寝過ごした電車の中、ふいに肩をつつかれて、目が覚める。まどろみの中に浮かぶのは、キラキラした笑顔の天使。
『……あの、音、漏れちゃってますよ』
なんのことか理解するのに、時間はかからなかった。
あわててスマホのミュージックを止めて、まわりを見渡すけど、ほとんど乗客がいなかったことに胸を撫で下ろす。
『その曲、いいですよね』
『えっ?』
『友達にすすめられて、わたしも聴いてるんです。あっ、駅ここなので、お先です』
小さくお辞儀をして降りていく彼女を見て、胸の底がふつふつと湧き上がってきた。
見て見ぬふりだってできたのに、優しい子だ。笑った表情もひまわりのようで、愛らしい。
もう数ヶ月も前のことなのに、気付けば彼女のことばかり考えている。
ーー麻倉くんって、いつも一人だよね。顔はいいけど、話しかけづらいっていうかさ。
ーーあんまり関わりたくないよね。なに思われてるか分かんないもん。
クラスの人は、陰で俺のことをそう噂する。別に悪いことだとは思わないし、好きにしたらいい。
俺の曲を認めてくれているだけで、存在意義は示せているだろうから。
いつも通りの湿った電車で、夜の空を泳いでいく。この鉄の塊が行く先に、俺の望むものはあるのだろうか。
二度と会えるはずのない彼女を思い浮かべて、瞼を閉じかけると。
「あっ、もしかして、この前の……?」
聞き覚えのある声に、パッと顔を上げた。
つるんとした茶髪を左右に揺らしながら、女子高生が立っていた。
「やっぱり、LIV の人だ! 偶然ですね。今日は聴いてないんですね」
耳に指を当てて、にこりと目を三日月にする。会えたこともだけど、それ以上に覚えていてくれたことに胸が熱くなった。
スマホを取り出して、ミュージックを開く。
「……LIV、新曲出たんです。電車で一目惚れする曲で、相手は天使なんで叶わない恋なんですけど。まあまあいい曲ですよ」
もう二度と会えないと思っていた。
名前も年齢も知らない彼女に、恋をしたなんておかしな話かもしれないけど。
「それだけでもう素敵。なんてタイトルなんですか?」
キラキラした瞳の彼女と、ひとつでも繋がりを見つけられたらーー。
グレーがかった毎日が、もう少し明るくなる気がする。
「群青カタオモイ」
fin.
「ラブソングなんて珍しいよね。でも、めちゃくちゃよかった。なんてゆうか、心臓にくる」
「あのクリアボイスで囁かれるカンジ、たまんないよね。聴いた瞬間死んだもん」
教室で飛び交う会話に、イヤホンでそっと耳を塞ぐ。
一番後ろの隅っこの席で、机に突っ伏しながら空想にふける。
一目惚れだった。
部活帰りで寝過ごした電車の中、ふいに肩をつつかれて、目が覚める。まどろみの中に浮かぶのは、キラキラした笑顔の天使。
『……あの、音、漏れちゃってますよ』
なんのことか理解するのに、時間はかからなかった。
あわててスマホのミュージックを止めて、まわりを見渡すけど、ほとんど乗客がいなかったことに胸を撫で下ろす。
『その曲、いいですよね』
『えっ?』
『友達にすすめられて、わたしも聴いてるんです。あっ、駅ここなので、お先です』
小さくお辞儀をして降りていく彼女を見て、胸の底がふつふつと湧き上がってきた。
見て見ぬふりだってできたのに、優しい子だ。笑った表情もひまわりのようで、愛らしい。
もう数ヶ月も前のことなのに、気付けば彼女のことばかり考えている。
ーー麻倉くんって、いつも一人だよね。顔はいいけど、話しかけづらいっていうかさ。
ーーあんまり関わりたくないよね。なに思われてるか分かんないもん。
クラスの人は、陰で俺のことをそう噂する。別に悪いことだとは思わないし、好きにしたらいい。
俺の曲を認めてくれているだけで、存在意義は示せているだろうから。
いつも通りの湿った電車で、夜の空を泳いでいく。この鉄の塊が行く先に、俺の望むものはあるのだろうか。
二度と会えるはずのない彼女を思い浮かべて、瞼を閉じかけると。
「あっ、もしかして、この前の……?」
聞き覚えのある声に、パッと顔を上げた。
つるんとした茶髪を左右に揺らしながら、女子高生が立っていた。
「やっぱり、
耳に指を当てて、にこりと目を三日月にする。会えたこともだけど、それ以上に覚えていてくれたことに胸が熱くなった。
スマホを取り出して、ミュージックを開く。
「……LIV、新曲出たんです。電車で一目惚れする曲で、相手は天使なんで叶わない恋なんですけど。まあまあいい曲ですよ」
もう二度と会えないと思っていた。
名前も年齢も知らない彼女に、恋をしたなんておかしな話かもしれないけど。
「それだけでもう素敵。なんてタイトルなんですか?」
キラキラした瞳の彼女と、ひとつでも繋がりを見つけられたらーー。
グレーがかった毎日が、もう少し明るくなる気がする。
「群青カタオモイ」
fin.