第7話 「死ね」はない……

文字数 914文字

 給食の後、13時25分から45分間の昼休みが始まる。
 昼休みに図書室に来るのは大抵4年生までで、高学年はあまり多くない。去年までは毎日借りに来ていた子も、5年生になった途端、ぱったりと姿を見せなくなったりするから不思議だ。
 だから、5、6年生が図書室にいると結構目立つ。
 ある日の昼休み、めずらしく、6年生らしい男子が3人で図書室に入って来た。入口の所からすでに大声をあげていたからすぐに目についた。
 私はすぐに、その子たちに向かって人差し指を口に当てて「静かにね」と小声で言った。
 だが、3人は聞く耳をもたない。
 何かすごく盛り上がっているようだった。
 あまり見かけない子たちだった。
 3人は、私の注意などおかまいなしに、図書室の奥へと声をあげながら走りだした。
 すると、1人が、近くにいた2年生の男子にぶつかりそうになった。
「図書室で走らない!」
 私は思わず強めの口調になってしまった。
 3人はちらっと私の方に顔を向けた。だがそれだけで、騒ぐのをやめようとはしない。
 こういう時は担任の先生じゃなきゃ駄目だ。
「きみたち6年生?何組?」
 すると急にむっとした顔になった。ちょっとヤバいと思ったのか、しぶしぶ図書室から出て行くそぶりを見せた。3人が不満げな表情で出て行きかけた時、1人が私をふり返って、
「死ね」
と言った。
 え?
 今「死ね」って言った?
 にわかに信じがたい言葉だった。
 死ね?私?なんで?は?意味がわからない。死ねって、死ねって、どういう事?
 これまでどんなに一人ぼっちでも、「死ね」なんて言われたことはない。それなのに。
 人生初の「死ね」——。
 私の頭の中は大混乱した。
 私はその後の昼休み中、カウンターを当番の図書委員にまかせたまま、呆然と図書室の中をただ歩き回っていた。
 家に帰ってからもずっと「死ね」が頭の中で鳴っていた。
 まだほんの小学生。それなのにその子の発した言葉の威力はすごい。
 私のメンタルなんか簡単に壊してしまえるくらいだ。
 ガムを吐き捨てるみたいに吐き出された「死ね」という言葉は、私の体にべったりとくっついた。それは、早く取らないと、もう絶対取れないようになってしまう、そんな気がした。
 




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