第3話 けんか友達

文字数 729文字

 月曜日の1時間目。
 使用割表は2年4組の時間。
 始まりのチャイムが鳴るとすぐに、29名が図書室に雪崩れ込んできた。
 カウンターにはパソコンが2台あって、返却用と貸出用に分かれている。
 返却用のパソコンの前に並んだ二人がもめだした。
「あたしが先に並んだんだよ!」
「なんで、あたしが先だった!」
 月曜の1時間目からもめる元気があるのは、さすがに若い証拠。素晴らしい。
「はい、ちゃんと並んで!」
 後ろがつかえているので、あまり時間をかけて聞いてあげる余裕はない。
 私は、出された本を事務的に左からピッピッと返却処理をしてしまう。
 すると、後からピッとされた方は納得いかないで、癇癪を起こした。
「なんで、なんで!あたしが先だったのにぃ」
 そして、図書室を走って先にピッとしてもらった友達を追いかけて行く。
「図書室は走りません」
 私の声は届かない。
 今度は借りる本を持って、またその二人が同時にやって来た。
「あたしが先だからね!」
「ちがう、あたしが先!」
 まだやっている。
 ライバル?一日中こんな調子なのかな。
 よく見たら、二人ともショートカットで、きりっとした目元もよく似ている。
 似ているからお互いを意識してしまうのかも。
 私はこんな風に誰かと言い合いになったことがないなあ。人生で、けんかした事がない人って、世の中にどれくらいいるんだろう。
「あのう、本、借りてもいいですか」
 言い争う二人の後ろで、静かに本を抱いて待っている花梨さんが声をかけた。
 花梨さんは、学校に時々しか来ない。だから、クラスにも友達がいない。
 私は、「先にいいよ」と言って、花梨さんの本のバーコードを通した。
 花梨さんはだれかとけんかしたこと、あるのかなと、ふいに気になった。
 
 
 

 

 
 
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