ステキな出会いと、様々な再会
文字数 2,029文字
久しぶりの渋谷だ。
人気の多い通りを過ぎて、友達から聞いてきた、お目当てのお店を探していると
カラカラカラ……と坂道を、何か緑色のものが滑ってきた。
駆け寄る人の気配がして、落とし主だと気付き、それに手を伸ばした。
「ちょ、待っ……気を付けて!」
はい?と、ふり向いた時
カチリ、と指先に手応えを感じ、パッ!と光が走った。
「あっ……!」
面食らった顔の……落とし主らしい、とても綺麗なヒトは一瞬だけ、あぁと額に手をやったが、すぐ気を取り直したように笑顔になると
「やっちゃった……一枚、考えないとなぁ。ゴメンね、ありがとう」
ふと、どこかで見た事があるヒトだと思って彼女の来た方を見ると、どこか放送局らしいロゴの入ったワゴン車からは、それらしい機材を出す人々があり、どうやらロケの準備中だ。
渋谷では珍しくない。
っていうか、それよりも……なんだろうコレ?
プラスチックの箱?
何か小さなガラス……レンズ? なんだか、ピィーンという音がしている。
さっきの手応えの所を、また右手の親指でそっと押してみるが、拾った時のようなあの感触は無い。何か角の所に小さな窓があり、小さなオレンジ色のランプが光っている。
落とし主の女性は、フフッと笑った。
「それね、カメラなの」
ハッとして、逆さまに持っていたらしいソレをひっくり返すと、手にしっくり馴染む。
なるほど、角の所のコレはさっき光ったランプ。じゃあ、この四角い穴は撮影用の覗き窓だ。
「……本当だ! カメラだったんですね」
「そうよ。初めて見た?」
「えぇ」
ふと、思い直す。
「あの……ゴメンなさい。一枚、撮っちゃいましたよね?今の」
「あはは! 気にしないで」そのヒトは、やっぱり素敵な笑顔で、手を軽く振ってくれた「これから街の人を撮ってくトコなの。自撮り風にね」
「その写真を使って、何かイベントでもするんですか?」
「あー、違う違う。あははは!」また笑顔「このカメラのCMに使うんだけどね、CMというより広告って言うのかな……あっ!よかったら、ねぇアナタも一緒に撮ろう?」
え? え? と躊躇していると、ワゴン車の辺りからも、とても愛想が良さそうに笑いかけてくるスタッフが居る。街の人から募っての、何かそういう企画なのだろう。
勢い、折角なので、思い出だ! と、この素敵な笑顔の人と、一緒に写ることにした。
そのヒトは、カメラの角にある何かをいじってカリカリカリ、と音を立てると
「よしっ! じゃあ、アッチの街並みなんか背景にしちゃおうか。……いくよー?」
カチリ! ……眩しいフラッシュが焚かれて、ピィーンと音がする。
「ピンボケじゃないですか?」
「んっ! コレねぇ、ピンボケしないカメラなんだよ……撮影距離さえ守れば?」いたずらっぽく笑っている。
「へぇ」あまりの屈託の無さに、本当かなぁ、とチョットだけ思った。
「よかったら、アナタも買って使ってみてね!」
ありがとう、と手を振りながら笑顔の素敵な彼女は、ワゴン車の方に走り去っていった。
私は、少しだけ見送ると、行こうとしていた路地に入る。
うーん。たぶんCMとか広告で写真を使うとしても、きっとプリクラみたいに小さな写真をワーッ!と集めて……みたいな? そういうパターンなんだろうなぁ。ソレだったら、もし広告で使われる事になったとしても、誰がどれだかなんて判らないよね?
何か安心材料を探すように、あるいは自分が過大な期待をしすぎないよう、そんな事を考え置くと、ほしいと思っていた靴やワンピースが、まだあるのかどうかが急に気になりだし、お目当てのお店へと足早に向かっていった。
再会。
また私は、その人に出会った。
駅に林立するデジタルサイネージ画面に浮かんだ広告で、私はあのヒトを見かけた。
あ、と思わず柱の影で立ち止まり、見届けていると……スッ、スッと、切り替わっていく様々な写り方をした、あの人と誰かの写真の最後。
あの人と私が、まるで思いがけない出会いでもしたように、ローアングルの写真。
事実とは違うけど、私は彼女と、劇的な再開を果たした言葉が添えられて。
「……あっ、懐かしーなぁ! このカメラ、まだあったんだ!」
「えー? 知らない、ナニそれ」
「でも、デジタルカメラやスマホ推しで、もう世の中フィルムなんて無くなっちまうんだろうになぁ……」
私の傍らでも、誰かは映し出されていく広告を見るや、しばらく関心も無くって忘れていた様子のそのカメラとの再会を果たしている。
あれから何年も経ってから、SNS上でも拡がっているフィルム撮影の静かな流行に伴い、私は、また再会をしている。
今、私はあの時、拾ったようなのと同じ使い切りカメラを手に……あのヒトのような素敵な笑顔ができる自分を探しながら、きっとあの時の私達よりも、ステキな偶然に再会できる時を探して。
人気の多い通りを過ぎて、友達から聞いてきた、お目当てのお店を探していると
カラカラカラ……と坂道を、何か緑色のものが滑ってきた。
駆け寄る人の気配がして、落とし主だと気付き、それに手を伸ばした。
「ちょ、待っ……気を付けて!」
はい?と、ふり向いた時
カチリ、と指先に手応えを感じ、パッ!と光が走った。
「あっ……!」
面食らった顔の……落とし主らしい、とても綺麗なヒトは一瞬だけ、あぁと額に手をやったが、すぐ気を取り直したように笑顔になると
「やっちゃった……一枚、考えないとなぁ。ゴメンね、ありがとう」
ふと、どこかで見た事があるヒトだと思って彼女の来た方を見ると、どこか放送局らしいロゴの入ったワゴン車からは、それらしい機材を出す人々があり、どうやらロケの準備中だ。
渋谷では珍しくない。
っていうか、それよりも……なんだろうコレ?
プラスチックの箱?
何か小さなガラス……レンズ? なんだか、ピィーンという音がしている。
さっきの手応えの所を、また右手の親指でそっと押してみるが、拾った時のようなあの感触は無い。何か角の所に小さな窓があり、小さなオレンジ色のランプが光っている。
落とし主の女性は、フフッと笑った。
「それね、カメラなの」
ハッとして、逆さまに持っていたらしいソレをひっくり返すと、手にしっくり馴染む。
なるほど、角の所のコレはさっき光ったランプ。じゃあ、この四角い穴は撮影用の覗き窓だ。
「……本当だ! カメラだったんですね」
「そうよ。初めて見た?」
「えぇ」
ふと、思い直す。
「あの……ゴメンなさい。一枚、撮っちゃいましたよね?今の」
「あはは! 気にしないで」そのヒトは、やっぱり素敵な笑顔で、手を軽く振ってくれた「これから街の人を撮ってくトコなの。自撮り風にね」
「その写真を使って、何かイベントでもするんですか?」
「あー、違う違う。あははは!」また笑顔「このカメラのCMに使うんだけどね、CMというより広告って言うのかな……あっ!よかったら、ねぇアナタも一緒に撮ろう?」
え? え? と躊躇していると、ワゴン車の辺りからも、とても愛想が良さそうに笑いかけてくるスタッフが居る。街の人から募っての、何かそういう企画なのだろう。
勢い、折角なので、思い出だ! と、この素敵な笑顔の人と、一緒に写ることにした。
そのヒトは、カメラの角にある何かをいじってカリカリカリ、と音を立てると
「よしっ! じゃあ、アッチの街並みなんか背景にしちゃおうか。……いくよー?」
カチリ! ……眩しいフラッシュが焚かれて、ピィーンと音がする。
「ピンボケじゃないですか?」
「んっ! コレねぇ、ピンボケしないカメラなんだよ……撮影距離さえ守れば?」いたずらっぽく笑っている。
「へぇ」あまりの屈託の無さに、本当かなぁ、とチョットだけ思った。
「よかったら、アナタも買って使ってみてね!」
ありがとう、と手を振りながら笑顔の素敵な彼女は、ワゴン車の方に走り去っていった。
私は、少しだけ見送ると、行こうとしていた路地に入る。
うーん。たぶんCMとか広告で写真を使うとしても、きっとプリクラみたいに小さな写真をワーッ!と集めて……みたいな? そういうパターンなんだろうなぁ。ソレだったら、もし広告で使われる事になったとしても、誰がどれだかなんて判らないよね?
何か安心材料を探すように、あるいは自分が過大な期待をしすぎないよう、そんな事を考え置くと、ほしいと思っていた靴やワンピースが、まだあるのかどうかが急に気になりだし、お目当てのお店へと足早に向かっていった。
再会。
また私は、その人に出会った。
駅に林立するデジタルサイネージ画面に浮かんだ広告で、私はあのヒトを見かけた。
あ、と思わず柱の影で立ち止まり、見届けていると……スッ、スッと、切り替わっていく様々な写り方をした、あの人と誰かの写真の最後。
あの人と私が、まるで思いがけない出会いでもしたように、ローアングルの写真。
事実とは違うけど、私は彼女と、劇的な再開を果たした言葉が添えられて。
「……あっ、懐かしーなぁ! このカメラ、まだあったんだ!」
「えー? 知らない、ナニそれ」
「でも、デジタルカメラやスマホ推しで、もう世の中フィルムなんて無くなっちまうんだろうになぁ……」
私の傍らでも、誰かは映し出されていく広告を見るや、しばらく関心も無くって忘れていた様子のそのカメラとの再会を果たしている。
あれから何年も経ってから、SNS上でも拡がっているフィルム撮影の静かな流行に伴い、私は、また再会をしている。
今、私はあの時、拾ったようなのと同じ使い切りカメラを手に……あのヒトのような素敵な笑顔ができる自分を探しながら、きっとあの時の私達よりも、ステキな偶然に再会できる時を探して。