第37話  クルクル白竹ママ 

エピソード文字数 4,134文字


 ※


 体力テストから二日後。今日は水曜日。

よし。行って来るぞ
お姉ちゃん。頑張ってねぇ~!

 今日の華凛はぐずらなかったな。スマホのソシャゲーに夢中である。


 恐らく、一緒にやってるパーティが強くて安定しているのだと予想。

 玄関をバタンと閉めると、小さな溜息を吐くのは最早習慣である。


 アルバイトを平日のど真ん中に設定して正解だった。


 現在時刻。十七時四十五分。ベスト過ぎる時間帯。

 

 体力的な問題も無く、入れ替わりサイクルも非常に安定してるので、もう一日くらい増やしても良さそうだな。


 親父が仕事で家に帰ってこなくなって三日。

 

 バイトを増やすか、華凛の傍にいてやるのがいいのか、お姉さんは悩むのであった。

おはようございます!

 仕事では元気に挨拶これ基本。親父も良く言ってたからな。


 それに対し向こうも笑顔で返してくると、こちらのモチベも上がるってもんだ。

 白竹さんに続き、じいじや魔樹も厨房から手を上げてくれる。



 すぐさま着替えて背中のボタンも装備。ここで思わずニンマリしてしまう。

 そしてカチューシャをつければ素敵なメイドに早変わり。



 さぁ出陣である。

 今日も一日頑張りまっしょ!



 いつもと同じく配膳オーダーの専門職となっていたが、今日は今までよりも客が引くのが早かった。

 開始して一時間も経たないうちに楽勝になってくると、白竹さんとレジの前で並んでいた。



もう完璧ですね。オーダーも間違えないし
いえいえ。今日はまだ。間違えてないだけというか……
そろそろレジの方もお任せしようかな? 今の内にちょっと教えますね
はい! 分かりました!


 きた!


 楓蓮はレベルアップした。そう思った瞬間だった。

 ついに、次のステップへと……


 よし。これは完全に龍子さんをリードしたはずだ。



 教えられた内容はレジの基本的な操作だったが、俺は初めてなので、実際白竹さんがやってる所を後ろで見ていた。


 大体分かる。ただこれもオーダーと一緒で間違えなければどうって事無い。

 一度やり始めたら多分楽勝だと思い「いけそうな気がします」と、少しばかり出来る女をアピールしたが、

それ。龍子さんも同じ事言ってたよ
なっ! 龍子さんもレジやってるのです?
月曜日にやってました。殆ど一日でマスターしてましたよ

 なんだって!


 リードしたと思った俺がバカだった。

 まさか先にレジをやってたとは……

 しかも一日でマスターだと? これは負けてられん!


 白竹さん! 俺はもっとスパルタでいいです。

 俺だって一日でレジ職人のスキルを極めてみせる!





 そんなこんなでレジに夢中になってる俺に、厨房から楓蓮さんと呼ぶ声がした。


 よく見るとじいじや魔樹と一緒にいたのは……白竹ママだな。

 今日もその美貌を如何なく発揮し、こっちに来いと手招きしてやがる。

ここは私がやってますから。お母さんのとこ行って来てね

 うん。今日の白竹さんは笑顔は見せるがとてもクールだ。

 マジで高校の彼女とは別物である。何故こんなに違うのだろうか。


 クールな白竹さんは、クル竹と呼ばせてもらおう。

こっちこっち~
 と魔樹がクネクネしてやがる。

 こちらも高校との無愛想とは程遠い男の娘だ。

 ここまで来ると、何でそんなに違うの? と突っ込めないのがつらい。

 学校での変貌ぶりを知ってるのは蓮だけだからな。



 う~ん。すげークネクネしてるし。


 体力テストで爆走したあいつは一体何処へ逝ったんだよ。


 クネクネしてる魔樹は、クネ魔樹。

 う~ん。イマイチ言いにくいな。




 さて、厨房に行くと白竹ママが笑顔で挨拶してくる。


 先週ろくに挨拶もせず、出て行っちゃってごめんねっという事だったが、俺は別になんとも思ってなかった。

で、早速こっちに来て欲しいの。じいじ。お店お願いね
 特別任務なのか? などと思ってしまったが、白竹ママについていくと、厨房の奥に階段があり、その先は普通の家の玄関が見える。
あれ? 家? ですか?
そうよ。我が家に通じてるのっ。ささっこちらにどおぞ

 通された場所は一つの部屋だったのだが、そこにはハンガーに掛けられた衣装がズラリと並んでおり、思わす「すごっ」と漏らしてしまった。


 ここで何するの? と思ったら、白竹ママは笑顔でこんな事を言ってくる。

楓蓮ちゃん。好きなのに着替えましょうか
え?

 え? 着替える? な、なんの話ですか?


 ※

これもいいけど。こっちの方がいいわねっ? ねぇねぇ楓蓮ちゃんはどっちがいい?

短い丈のセーラー服と。赤のチャイナドレス。


ちょっと待ってください。まさか着替えて……接客するとか?

うんうんうんうん! 正解!

あなたはとっても美人だわっ! 美人すぎてめっちゃ似合うと思うの。だからお願い

 マジかよ。いやいやいや……どっちも相当キツイぞ。

 今着てるメイド衣装の方が遥かにマシに見えてくる。

これでもいいわっ。バニーちゃん!
そんなの無理です!
ウェディングドレスもあるわよ
む、むりむり。無理ですって!

 やばい。このままじゃ着せられる。

 ママが俺に……とんでもない衣装を……

 

 この中で一番マシなのは……チャイナドレスか?

 赤は無理だが、こっちの黒ならイケる。すこし地味っぽいし、ほんのちょーっと着てみたい願望が。


 とにかく。無難な格好で凌がないと強引に着せられそうだし

じゃあ。これなら……

わぁ~~~お。それがいいの? えへへへへ

いいわよっ。素敵なチョイスだわっ!

 あぁやっぱり白竹さんママだ。 

 口調もクネクネも蕩ける笑顔も全て一緒だし。一緒すぎてマジで笑えてくる。 



 早速衣装に着替えると、胸元が開いているのに気が付いたが遅かった。

 丈も非常に短いし、俺が想像するよりも遥かに露出が多かった。

次は髪もイジイジするわよっ! 弄り倒してあげるわっ!

 言われるがままドレッサーに座らされる。ってかこのドレッサーでかすぎ。

 鏡もでかいし、どこかのスタジオみたいである。

楓蓮ちゃん。あなた。髪の毛のお手入れも、お化粧もしないとダメよ。

勿体無いわっ! 勿体無さすぎるわよっ!

あ、はい……
そこを突っ込まれるとつらいな。興味が無いだけに返答できない。

何なら、私が教えてあげるわっ! 女性と言うものを! 全てっ! 何もかも!


伝授してあげるわよ~~~っ!

ははっ……

 なんて答えていいかわかんねー。


 とりあえず愛想笑いで凌いでいると、白竹ママに髪を弄られる。

 鏡越しに見えたのは、とんでもない速さで動くママの手で、直視出来ないほど早い。


 俺の髪がどんどん変形していく。

 お団子になったりサイドアップになったり、ストレートになったりと、次々に変化する。


ふふふ~ん。綺麗な髪ね。とっても素敵よ。素敵すぎるわっ! 楓蓮ちゃん!

 超ご機嫌な白竹ママであった。何かすっげーテンションが上がってやがる。

 とりあえず何も言わないで完成するのを待っていよう。

これね! これしかないわっ! 素敵すぎてママは惚れちゃいそう

 これは……自分で言うのもどうかと思うが、イケてるぞ。

 普通のふわっとロング(正式名称なんで知らん)だが、どこかのアニメにもありそうで無さそうな……

こんな可愛い楓蓮ちゃんを見たら、男はすぐ惚れるわねっ。

イチコロよっ。一撃で死ぬわっ。死んでしまえばいいわっ

 ちょ! ママがすんげークルクル回りだしたぞ!

 しかも早い。じいじ達がクルクル回ってる速度とは桁違いに回ってる!



 しかし。これ……

 鏡に写る自分を見て、これマジで俺なの? と思ってくる。



 その原因はやはり髪だ。

 ポニテしか出来ない俺にとってそれ以外の髪型は全て新鮮に思ってしまう。


あのね。じいじや子供達がね。楓蓮ちゃんは仕事もちゃんとしてくれるし、楽しいって、いつも言ってるのよっ

白竹ママと鏡越しに目が合う。

とても優しい眼差しで、じっと見つめられると、俺は少し恥ずかしながら目を逸らしてしまった。

それに楓蓮ちゃんなら、魔樹でも美優でも好きな方と結婚しても構わないわっ。


私が許可するわっ! もうあなたにあげるわっ!

なんなら二人とも貰ってくれても構わないのよっ!

ちょっと!

 魔樹はともかく、美優ちゃんは女の子なんですけど。

 というか二人貰ってくれって……


 などと心の中で突っ込んでいると、白竹ママが耳元から囁いてきた。

それとも……私と結婚するという選択肢もあるわよっ
は?

 な、なに? この人。

 さっきから様子がおかしいぞ。 

 

 何かちょっと……危ない人なのか?

 俺が思いっきり顔芸を見せてると、白竹ママは「冗談よ」と小さな声で答えた。


 マジよ。とか言われたら洒落になりませんけど。

いい? 楓蓮ちゃん。白竹家はあなたを歓迎しまくってるわっ! 大絶賛よっ! どうか。これからも仲良くしてあげてください。ま~~~せ~~~
はいっ。こちらこそ……よろしくお願いします

末永くお付き合い……いえ。お突きあいね。お突きあいするのよっ!


そうっ! こんな風にっ!

 ちょっと! 後ろから抱きしめられるのはいいが……


 すんげー胸が当たってるんですけど。


 ってか。ものすげぇでかいぞ。この人!

ちょ……当たって……

そうよっ! 当たってるわよ。当ててるわよっ!


当たってしまわれるのよっ! 大きいからっ! 巨大だからっ!

 何言ってるの? この人。

楓蓮ちゃん! 何を恥ずかしがってるのっ?


あなただって。女の子でしょう? 何も恥ずかしがる事ないわよっ!


これは白竹流のスキンシップなのよっ!

 くっそ当たってるし。グニグニ押してくるからタチが悪い。


 あまりにも激しいので、少し強い口調で「ちょっと」と言うと、パッと抱擁を解いてくれた。

美優や魔樹にもやってあげてね。きっと喜ぶわっ!


私なんて、いつでもウェルカムよっ! 楓蓮ちゃん!

 とりあえず愛想笑いで「はい」と答えると、そこからママは急に回りだした。



 目を輝かせてクルクル回ってても笑っちゃダメだ。

 一秒に三回くらい回ってても、笑っちゃダメだって!




(ってか。これが、俺かよ……)

 自分で言うのもなんだが、可愛いじゃないか。

  

 それと自分とは趣旨の違う衣装にされてしまったが、俺でもこういった露出の多い服が似合うという事に、満更でもない顔になってしまうのだった。



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次回 滅。破廉恥

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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