第2話

文字数 1,075文字

 今日は、なんだか騒々しい。
 おいらは、テーブルの下から、続々と現れる顔を一人ずつ、確かめる。また一人、また一人。どいつもこいつも見たことある顔だけれど、おいらが一番会いたい友達は現れない。あいつはどこへ行ってしまったんだ。
 あいつと初めて会ったとき、おいらは、なんだかうれしくて、おでこをすり寄せた。するとあいつは、おいらを抱き上げ、おいらのおでこと自分のおでこをくっつけて、こう言った。
「あんたの名前はデコにしよう。最初におでこくっつけてくれたしね。今日からあんたはデコ。あたしの大切な友達だよ」
 なんだよ、もうちょっと捻れよと思ったけれど、おいらは、あいつにデコと呼ばれると、ウキウキした。あいつは、いっぱい遊んでくれたし、おやつもくれた。時々、ケンカもした。夜はいっつも、くっついて寝た。
 幸せな時間はあんまり長く続かなかった。あいつはベッドに横たわり、辛そうにうめき声を上げることが多くなった。おいらは心配になってあいつのおでこに、おいらのおでこをすり寄せた。するとあいつは微笑んで「デコ、ありがとう。あんたのおかげで、少し楽になったよ」と言った。それから、あいつは辛くなると「デコ、デコ」とおいらの名前を愛おしそうに呼んだ。そんなとき、おいらは、急いであいつの元に駆けつけた。
 けれど、ある日を境に、あいつの姿が見えなくなった。おいらはずっとあいつの帰りを待った。けれども、あいつとは違う誰かが、おいらを連れていった。あいつに会えるのかなと思ったけど、やっぱりあいつは現れない。

 あれ?あいつの声が聞こえる。あいつの顔が四角い箱の中にあった。
 やっと帰ってきたのか、どこ行ってたんだよ。なんだ、元気になってるじゃないか。
 おいらはうれしくておでこをあいつにすり寄せた。けれど、あいつのおでこはひんやりと冷たい。この中にいるからだ。
 おい、なあ、早く、ここから出てこいよ。おいらの友達はお前だけなんだから。お願いだから、そんな意地悪しないでくれよ。頼むよ、なあ、もう一度、デコって呼んでくれよ。
 すると、あいつは、おいらの名前を呼んだ。
「デコ、元気にしてる?ごめんね、ずっと一緒にいられなくて。でも、あんたはいい子だから、皆に可愛がってもらえるはずだよ。だから、アタシのことなんか忘れて、新しい家で幸せに暮らすんだよ。デコ、デコ、アタシの大切な友達、サヨナラ」
 なんだよ、それ、忘れろだと。忘れられるわけ、ないじゃないか。

 デコ。この名前はあいつとおいらの、友達の証。
 だから、他のヤツらが呼んだって、そんなのただの雑音なのだから。

〈完結〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み